真田ピロシキ

グレタ ひとりぼっちの挑戦の真田ピロシキのレビュー・感想・評価

3.8
グレタ・トゥーンベリが学校ストライキを始めた頃から2019年に国連ビルでスピーチするまでを追ったドキュメンタリー。環境保護活動家のシンボルとしての姿を捉えているのは勿論だが、自閉症スペクトラムの自分にとってはアスペルガー症候群である彼女が為せる世界に大きく心を動かされた。

グレタとアスペルガーは彼女に対して悪意を抱く人が言うように地球温暖化に対する思いを良くも悪くも強調しているようにも感じられ、私などにはそういう思い込みすぎる傾向があるのだろうと思うのだけれど、そこはトップランナーになるだけの事があるグレタ。映画の序盤から興味を持った事にはのめり込み一度読んだ本を覚えてしまうスーパーアスペルガーとしての姿を提示されて、彼女が感情的に持論を述べてるだけの子供ではなくて科学的根拠に基づいて述べられている事が描かれる。またグレタの学校ストライキに対して心ない人から「学業を怠るな」という声があるが、学校で表彰されてるシーンを入れてそういうノイズへのカウンターを示しているのが痛快。グレタは恐らくアスペルガーに起因するコミュニケーションの難しさ故に小さい頃仲間外れにされたようだが、そういう嫌われる事に耐性がついていたからこそ大企業に嫌われるのを恐れて歯切れの悪い環境政策しか口に出せない政治家を痛烈に批判できるとも感じて、ありふれた言葉であるが嫌われる勇気を持った彼女は強く、色々な点でアスペルガーを強みにできている。それを支えたのは世界を回る時にはついて行く父を始めとした家族の存在で、これがなかったらさしもの彼女も自尊感情を抱けずへし折れていただろう。家族と共に無邪気な笑いを見せるグレタは怒れるティーンの環境保護活動家ではなく年齢相応の少女で、アスペルガー症候群の家族を描いた映画としても見る意味がある。

グレタの強さでもう一つ心に残ったのは、当然ヴィーガンであったりするのだが、飛行機の使用も世に伝えられている通り拒否してて、その理由が「言ってる事とやってる事が違う人にはなりたくない。」というもので、言うのは容易いが本当にやるのは、しかも徹底するのは難しい。誰しもそうありたいとは思っていてもついつい便利な方には流されてしまいがちであるのだが、そこを貫ける、拘れる力はこれもアスペルガーの特性をギフトにできていると感じる。この特性は超記憶力みたいな特殊能力を持たない多くの普通のアスペルガー者にもある程度は真似できるので、彼女の姿から得られるものは多い。地球温暖化を憂う気持ちが少しでもあるのなら、グレタを完コピするのは無理だとしても出来る事くらい、例えば安いからと言って無闇に格安航空に乗るのを控えるくらいでも心がけて実行に移す程度でも拘れれば少しは意味がある。所詮自分程度の力じゃ無駄と冷笑的になって何もしないのが一番いけない。

金も影響力もない私どもにできるのは些細なことでしかないが、政治家や大企業のように本当に世界を変える力を持った人たちが些細な対策でやった気になる子供染みた態度を示しているならば、そこにはグレタ同様強固なNOを突きつけてやるべきで、環境問題が重要視されない選挙のTV番組が映されていたのはそれを許してる有権者の怠慢を糾弾している。我々大人は言われている。努力している子供を褒めて応援してそれで満足してるんじゃない。あなた達がやらないといけないんですよと。

気になったのはドキュメンタリーとしてのあり方で、ナレーションを用いないのはドキュメンタリー映画として誠実なのだが、音楽の使い方が一部劇映画のように主張が強くてそこだけ日本のTVドキュメンタリーのように感じた。1箇所ではボーカルつきの音楽まであって、エンドロールを見るにビリー・アイリッシュのようで若手のオピニオンリーダーをダブらせたのかもしれないが無粋だったかな。それとグレタのお父さんが特にチラッと映った若い頃の姿がマカヴォイに似てるように感じて本当にどうでもいい事だが映ると顔をじっと見てた。