マルデライオン

ブレードランナー ファイナル・カットのマルデライオンのネタバレレビュー・内容・結末

4.7

このレビューはネタバレを含みます

咲き綻ぶ花々と引き換えに
私の花がもし灰になったら
春の風はどこへ連れて行ってくれるかしら

彼がオーロラを見たと言っていたゲートの近くまで?
月の裏まで?  
戦車の傍らにひっそりと咲く花のそばへ?
灰色の霧が立ち込める街へ?
キンポウゲの咲き乱れる海辺の国へ?

それとも、それとも
あの頃みたいに微笑むあなたの右肩あたりにそっと舞い降りるかしら
きっと






デッカードも、人間かレプリカントか分からない。自分の母親のものと思われる昔の写真をたくさん並べてピアノを弾く彼は、自分の記憶が自分のものであることを確かめようとしているかのようだ。(このとき、ユニコーンが出てくるのは何故だろう。最後のシーンでも折り紙のユニコーンが出てくる。)

レイチェルの瞳は、時折タイガーアイのように固く、外からの光を反射して光る。リオンからデッカードを救った後、デッカードの部屋で彼女は彼にレプリカントらしい質問をする。

「もしわたしが逃げたら追ってくる?」「殺す?」


逃げたら最後、殺すために追われているのか、愛するために追われているのか分からなくなる。
見つめ合うのも怖い。触れ合うのも怖い。心を打ち明け合うのは怖いことだ。いっそのこと、確かなことは分からないまま、すべてを忘れてしまえるくらい遠くへ逃げて行けたなら。

「借りがある」と彼が答えた途端、レイチェルの瞳に内側から発光するような光が灯る。

質問は続く。顔を合わせないまま投げかけられる。
「わたしの記録見た?製造年月日や寿命が書いてある記録」
「例のテストだけど、受けたことある?」
この質問にデッカードは答えない。


結い固めてあった髪を解いたレイチェルは幼く、同一人物とは思えないほど印象が変わる。心なしかひと回り小さくなったようにも見える。

怖くなって逃げ出すレイチェルを、デッカードは迷うことなく追いかける。絶対にドアの向こうへ逃せない理由がある。彼女がレプリカントだからではない。人間のようだからでもない。その理由をデッカードが自覚したのは、ブライアン警部に「4匹だ」と言われ戸惑う自分に気づいたときか、レイチェルに命を救ってもらったときか、それとも彼女の奏でるピアノの音を聞いたときか。


顔を包み込もうとするデッカードの手は震える。二人とも震えている。
レイチェルの吐息が大きく漏れる。まるでデッカードのキスによって、たった今息を吹き返したかのようだ。









ロイ・バッティの素肌に跳ね返る雨が光っていた。
俯いたロイ・バッティの輪郭が光を発していた。
彼を見つめるデッカードの瞳も光っていた。

今にも壊れそうな記憶の美しさをありありと思い出し、その美しさを確かめるように語るバッティは震えている。声も口元も震え、瞳から涙がこぼれる。 

デッカードと一緒に目を見張る私たちは、燃えた宇宙船を想像しながら聞いているのか、オーロラを想像しながら聞いているのか、それとも目の前で震えるバッティを見ているのか、分からなくなってくる。ただそのすべてが美しいということだけが分かる。

デッカードも、彼と同じように涙を流した私も、きっとこの時のことを忘れないだろう。


       *



「見せてくれよ!デッカード!What you're made of(お前を形作っているもの=本質・信条)を!」

「恐怖の連続だろう。それが奴隷の一生だ。」


       *



分かってたまるか
お前は知るのか
ひとの優しさを
愛しいものを見る瞳に宿る星を
心が温かくなるということを
散る花のようにはかないひとときであることを


お前も知っているはずじゃないのか
たしかに愛は眠っているということ
恥ずかしがり屋なぼくたちの胸の奥のほうに
それを守るために
ぼくたちは旅を続けているということ

魔法を吹き飛ばす凍風に耐え
砂漠の遥か地下を流れる水脈に耳を澄ましながら
荒れ狂う砂嵐で目が開かなくなっても
波のように揺り戻ってくるしずかな期待は消さずに



       *



カネコアヤノ

「さよーならあなた」https://youtu.be/zSu27I7WpvA

「爛漫」https://youtu.be/tAEFvCSPNPQ
マルデライオン

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