タキ

最後の決闘裁判のタキのレビュー・感想・評価

最後の決闘裁判(2021年製作の映画)
4.6
女に生まれたことが罰のような時代だ。ひとりになるなとカルージュが何度も妻を注意するシーンがあったが、ひとりになるということは即、強姦の対象になるということなのかと戦慄する。
実際にあったという中世におけるこの強姦事件の裁判では弁護人のような人物は見当たらない。妊娠も科学的に検証されていない時代とあって絶頂に達すると妊娠するとか強姦された場合は妊娠しないだの耳を疑う話が次々と繰り出される。合意の上か否か。このような非科学的な検証の上に密室の出来事を証明するような手立てはなく、マルグリットの女友達の「ル・グリは美男だ」と彼女が言っていたという告発がさらにカルージュ夫妻を窮地に陥れる。(非科学的な部分はさすがに採用はされないが)抵抗しなかったとかささいな交流があったというだけで合意とみなすなど現代でもありそうな話で、このあたり現代人への問題提起も忘れていない。黒澤明の『羅生門』では真相は藪の中という結末だったのに対し、こちらの真実はマルグリットの視点だとハッキリ明示してあるのも注目すべき点だと思う。そして妻の視点から夫を見ると実はこの決闘裁判を受け入れた理由は妻のためなどではなく自分の所有物を壊されたとかメンツを潰されたためでたとえ夫であっても共闘できる相手ではないというのがわかってくる。自分の生死をこんな男に委ねなければならないどうしようもなさに歯噛みをするしかない。ル・グリが勝ったら火炙りの地獄、カルージュが勝ってもそれよりちょっとマシな地獄、どっちも死んでくれと真剣に思う。それにしてもこの映画に出てくる男たちの小物感たるや。誰ひとりとしてまともなのがいない。小物のくせに命だけは平気でかけバカスカ死んでゆき言いようのない虚無感が漂っている。マルグリットはこれからちょっとマシな地獄の日々を暮らさねばならないのかとどんよりしていたら小さな息子は黒髪だったル・グリには似ていないし夫はのちに十字軍の遠征で戦死し彼女は30年独身のまま領地を治めたとテロップが流れる。あの脳みそまで筋肉出てきてそうな夫より領民もなんぼか幸せだ。せめてもの幸運に心底ホッとする。
20年ぶりのベン・アフレックとマット・デイモンの共同脚本がコレで、まったくいいところのない役をアダム・ドライバー含めやりきったのもマジでカッコイイ。もうひとり『ある女流作家の罪と罰』を書いたニコール・ホロフセナーが参加して女性視点の部分を書き、お互いに意見を出し合ったとのことで、完成度も高い。それからエイリアンのリプリーを彷彿とさせる逆境にめげない強い女を描き続けるリドリー・スコット監督のブレなさと若者たちが持ち込んだ企画を実現させるフットワークの軽さに拍手を送りたい。

『最後の決闘裁判』これぞリドリー・スコット!史劇・ミステリー・対決・強いヒロインの集大成
「3章目の女性目線のパートはニコール・ホロフセナーに脚本をゆだねた。彼女は“隠れた傑作”『ある女流作家の罪と罰』(18、日本ではDVD公開)のシナリオでオスカー候補になった才人。有名人の手紙の贋作事件が描かれ、人間の罪の意識をテーマにしていた点が今回の作品との共通点でもある。ホロフセナーは今回、マルグリット役のカマーの意見も取り入れ、女性ならではの感覚を生かしながら脚本を書き上げたという。」
https://news.yahoo.co.jp/articles/cbd4c26205350c6afcbebf1cffeaa386baa402a4?page=4

『最後の決闘裁判』ベン・アフレック、マット・デイモンとの脚本執筆&共演に「インスピレーションを得られる」「最高の気分」─ インタビュー映像公開
https://theriver.jp/the-last-duel-writer-interview/
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