えいがうるふ

最後の決闘裁判のえいがうるふのレビュー・感想・評価

最後の決闘裁判(2021年製作の映画)
4.6
うっかり寝不足気味のまま観に行ってしまい寝落ちも覚悟していたが面白くてそれどころではなかった。黒澤明の羅生門のように、表題の決闘に至るまでの展開を登場人物それぞれの相反する主張をもとに繰り返し再現するという三部構成ゆえ、「そういえばあのときは・・?」と気になったシーンを改めて見直して別角度から考察ができる面白さもあり、長尺も致し方ない。
もちろん全編を通し重厚に作り込まれた映像には迫力があり、冒頭からクライマックスへと繋げる決闘シーンの見せ方や男たちの野心とプライドを賭けた権謀術数を絡めていく展開など、練りに練られた重厚な構成も素晴らしく、さすがの見応えで全く退屈しなかった。
何より、三部構成の最後のマルグリット視点での再現幕を「The Truth」と表することに、監督の姿勢やこの作品が訴えかけるメッセージの根本がはっきり現れていて清々しく思えた。

たまたま自分はこの作品と「ヤング・プロミシング・ウーマン」とをほぼ立て続けに観ることができたので、二作品を通して女性への性暴力の長い歴史とその根深さについていろいろと考えさせられた。
(なお特筆すべきはこの二作を二本立てで上映してくれたギンレイホールの作品選びの素晴らしさである!)

まず、時代も社会背景も全く違うものの、どちらの作品でも実際に性犯罪が起こる際の加害者の理性を欠いた身勝手さや罪悪感の低さとともに、どういうわけか訴え出た被害者の方が社会的にひどい差別を受け、味方のはずの同性にまで裏切られ、公の場では当然のようにセカンドレイプに晒されるという二重三重の理不尽の構図がしっかり描かれていた。
これにより性的に虐げられる弱者の憤りと絶望の歴史が中世から現代に至るまで全く変わらず続いてきたことを改めて思い知らされる一方、ようやくそれに対して真っ当に抗議の声を上げられるようになってきた時代の潮流を、別々の角度から描かれた完成度の高い二作品からそれぞれに感じ取れたことは、率直に言って女性としてとてもうれしく清々しい思いがした。

とはいえ、どちらの作品も結局はいつの時代も司法や良識が弱者を守ってくれるわけではない、という苦々しくシビアな現実をも明示していた。
なにしろこちらの作品で最終的な裁きを下すのは文字通りの「神」である。だからこそクライマックスの決闘シーンでは主人公らと共に神に祈り、手に汗を握る緊張感をもってその経緯を見守る高揚感を味わえた。
一方、その後700年程も経た今を描いた「ヤング・プロミシング・ウーマン」で加害者に最終的な裁きを与えるのは、現代の神、或いは最強の権力者たる世論であるという凄まじい皮肉。
結局のところ、社会的弱者は今も昔も自らを頼りに立ち上がって闘っても、最後の最後は決して信頼できない大きなものにその運命を委ねるしかないのだろうか。まだまだ現実は厳しい。