えいがうるふ

LAMB/ラムのえいがうるふのレビュー・感想・評価

LAMB/ラム(2021年製作の映画)
4.0
本当は怖いグリム童話のような寓話めいたストーリーが淡々と描かれ、聞いている者の心中に湧き上がる数々のツッコミなんぞどこ吹く風でマイペースに話を続ける村の長老オババの語り部トークに強制参加させられているような「え、どうしよう」感がずっと続く。この不穏さがたまらない。

寓話と言えば、グリム童話にしろ日本昔話にしろ子どもを諦めた夫婦のもとにある日突然・・というプロットは洋の東西を問わず普遍的なものらしく、話の導入としてどれだけ無理があっても暗黙の了解であーはいはいそう言うことねと受け入れてしまうところがある。(私だけ?)

かくして一切説明のないまま何かが起こり、その冒頭の不穏さから一転して明るく壮大なアイスランドの美しい景色が流れる。
明らかに異常なことが起きても淡々と受け容れる主人公。その表情は感情が読み取りにくく、ひたすら不穏な空気のまま異物感を飲み込んだ日常が続いていく。緯度の高い国ならではの夜もなかなか暗くならず明るい光に包まれる世界は「ミッドサマー」を想起させ、恐怖とは闇にあるとは限らないことを思い出す。

因果応報の一言ではおさまらず、むしろ哲学的・宗教的に考えればいくらでも深読みの余地がありそうな話だが、個人的にはとても納得感のある結末だった。その怖いような楽しいような、牧歌的なようで非業で残酷な、いわゆる伝承民話的な味わいをそのまま素直に味わうのが愉しかった。

やたら明度は高いが色温度と彩度が低く保たれた独特の景色の中で差し色のように映えるとびきり鮮やかな子供服など、映像センスの良さは飛び抜けている。BGMも無くたっぷり間をとったショットが多いのも美術館の絵を眺めているようで心地よい。
が、お洒落そうな映画だと甘く見てるとガツンと落とされるので、ファーストデートで観に行く作品としてはやや不向きか。個人的には大喜びだが。