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イノセンツのMrOwlのレビュー・感想・評価

イノセンツ(2021年製作の映画)
4.2
怖い。緊迫感に引き込まれる映画でした。舞台はノルウェー郊外の住宅団地。主人公の一人である9歳の女の子、イーダの家族は郊外の団地に引っ越してきました。時期は夏休みで、旅行に行ってる家族もいるようで、団地の広場で過ごす子どもはまばらです。イーダにはアナ、というお姉さんが居ますが、ちょっと様子が違います。アナは自閉症のため言葉を話せないようです。体もイーダよりも大きいのですが、精神年齢はイーダよりお幼く見え、イーダがお世話をしてあげる様子や、つねっても反応しない様子からイーダのアナに対する複雑な心境が伺えます。そんな中、同じ団地に住む同世代の少年ベンジャミン(ベン)と知り合い、遊ぶようになります。ベンは不思議な力を持っており、物を動かすことができます。一方、アナもイーダと同世代の少女アイシャと知り合い、心を通わせていいきます。アナは言葉が話せませんが、アイシャはアナの気持ちが分かると言います。アイシャもどうやら不思議な力を持っていそうです。仲良くなっていく子どもたちですが、それぞれの家庭環境には問題や事情があり、子どもではありますが、心に闇や葛藤を抱えています。説明的なセリフはほぼありませんが、例えばベンの家では母親や家庭の様子を描いたカットから、あまり余裕のある家庭ではなく、母子関係にも問題がありそうなことが伺えます。闇を抱え、更に、感情のコントロールができにくい少年少女達は力をどう使うのか、子どもであるがゆえにその時の感情に素直に従った言動をすることが、子どもが力を持っている場合は非常に危険だ、ということが良く描かれている作品だと感じました。緊迫感がすごく、思わず力みながら見ている自分が居ました。本作には子どもの無垢な精神、無邪気さには不思議な力が潜む、ということが前提としてあるように感じました。そう考えるとストーリー展開も筋が通っており、楽しめるのではないかと。また、移民を受け入れ、社会問題化している部分もある現代のノルウェーを描くため、団地の住民はルーツが他国にある人も出てきます。イーダやアナはノルウェー人(少なくとも北欧人)と思われますがベンやアイシャもいわゆる金髪碧眼ではなく、ベンはインド・パキスタン系、アイシャはアフリカ系であるようです。ノルウェー人ばかりだとやはりリアルさが欠けるのでしょう。アジア系が居ないことからいわゆるポリコレ的な意図ではなく、現代のノルウェーの事実を踏まえているのだと思いました。
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