尾崎きみどり

イノセンツの尾崎きみどりのレビュー・感想・評価

イノセンツ(2021年製作の映画)
3.0
大友克洋の「童夢」にインスパイアされた北欧のホラー。最初に言っておくが、猫好きは観ないほうがいい。
子供同士の超能力バトルがあるが、派手な演出はない。元ネタの様に壁はへこまないし。
全般的に台詞は少なく説明もないので、子供達のふとした表情や動きから目が離せなくなる。次の瞬間どうなるか分からない緊張に満ちた点が、どこか子育てを思わせる。常に低く流れるノイズ音の中、さりげなく響く生活音が効果的に緊張感を与えてくれる。事が起こってからの、ベンのベッドを叩く音やアナのペンを乱暴に書きなぐる音はもういちいち恐い。北欧の映画は得てして静寂と音のバランス表現が上手い印象があるが、それが今回も巧みに生きている。
兎に角役者が上手い。特にアナの理解者となるアイシャは大人びた雰囲気がよかった。
演出も子供の心象風景をよく理解しているようで、大人が入れない子供の世界の不安定さがよく出せていたと思う。表題通り無垢である子供達は、寂しさや孤独や焦燥感を感じていると同時に、自分や周りに対する理不尽な憤りや残酷さも合わせ持つ。そういった複雑な感情の流れを嫌味なく表現出来ている。そこへ超能力というSF的要素を取り込むことによって得体の知れない不気味さが加速している。
最後のシーンはまさに静かなる闘いといえる名シーン。めでたしめでたし、とは言えずこれからどう転ぶか分からないのが不穏で良かった。
何かが起きている、けれども大人は誰も気づかない。
尾崎きみどり

尾崎きみどり