pika

道化師の夜のpikaのレビュー・感想・評価

道化師の夜(1953年製作の映画)
3.5
序盤は設定と雰囲気説明の部分であり、仕方がないとはいえちょっとつまんなくて、初期作ならこんなもんか?と思ったら中盤から火がつきまして、さすがだなと。ベッタベタな設定で大したドラマも起きない話なのにエンタメならこうなるかな?みたいな型から予想がけない方向へ少しずつズレていく。
徹底的に恥辱的な話だからこそ、笑われてなんぼなサーカスを舞台にしているのか、賑やかで騒がしく、ダメダメでグダグダになっても笑い飛ばしちゃう雰囲気が、どん底ストーリーを重苦しくせず、情けないほどの絶望展開でも落ちない、妙な味わいを生んでる。
序盤の羞恥的な挿話がラストで効いてる。一人だけのストーリーにしてないところもいいし、序盤の回想で映画の説明もしちゃえてるし二重に効いてる。みんな恥ずかしくて惨めで、現状から逃げたいと思ってても生きていかなきゃならない、地続きの毎日を送らなきゃならない、それは絶望でもあり希望でもあるみたいな。人間と人間の摩擦が生む感情とか、それによる変化とかも入ってるし、シンプルなストーリーだからこそ引き立ってる。
(小松弘著「ベルイマン」によると、ベルイマンのインタビューにて、幼少期の屈辱体験が影響しているらしい。羞恥や恥辱というより屈辱)
鏡越しの演出が多い。オープニングも水溜り越しとか水面の反射とか幻想的な演出から始まる。
設定がサーカスやら舞台やらってのもあるけど、演出も、リアルさを見せるってところと真逆をついていて、現実だったら不自然な立ち位置でも表現のために役者を立たせて、見つめあわせて、会話をさせている。カメラが不自然なほど作為的なんだけど、それが良くて、生なましい絶望が、作為的な虚構で描かれているからこそ虚構のドラマとして受け入れられるみたいな。鏡越しってその暗示なのかな。
見てよかった。
pika

pika