このレビューはネタバレを含みます
なかなか重厚でスリリングな作品だった。
余韻がすごいので、少し振り返ってみたい。
選んだ夫が実は全く知らない別人だった衝撃、残された子の葛藤
親を選べない子の悲劇、憎んでも忘れたくても父親の造形を引き継いでしまった自分への絶望
戸籍売買フィクサーのあけすけな物言いと謎めいた示唆
在日としてアイデンティティを否定される弁護士の苦悩、家族からも裏切られている現実からの逃避欲求
男女の絆、親子の絆、兄弟(妹)の絆…
見どころが沢山あった。
原作がベストセラー小説とのことだが未読につき比較出来ないが、初めから終わりまで全く飽きることのないストーリー展開だった本作の脚本も秀逸だと思う。
またやはりキャスト陣の力も大きい。
この錚々たる俳優たちの名前を見たら期待せざるを得ないのだが、ちゃんと期待に応えてくれている。
作品は安藤サクラから始まるが、前夫と別れて父親を亡くしている役柄にもかかわらず、田舎町の文房具屋にいてもなお色気を感じる。今まで見た彼女の作品の印象とちょっと違っていたので驚いた。そこから見知らぬ素朴な男•窪田正孝と新たな愛を紡いでいく過程がすっーと入ってきた。
窪田正孝は朴訥としたよそ者の男が突然襲われる自己嫌悪の苦悩や、家族を築いて幸せに包まれる夫・父親への変化、壮絶な過去との対峙など難しい役をきっちりこなした。
他にも印象に残った点としては、
・妻夫木聡の微笑みの裏に隠された抑え難い衝動
・眞島秀和の無意識に上から目線で嫌味を放ってしまうKY独特の雰囲気
・榎本明のアクが強く人を食ったような掴み所のない謎の囚人
・清野菜名の好きな男に裏切られてもひたすら待ち続ける芯の通ったいい女っぷり
などなど多々挙げられ、とても楽しませてもらった。
作品の名が自分の記憶にしっかりと刻まれる一作になった。
