りっく

雪の峰のりっくのレビュー・感想・評価

雪の峰(2021年製作の映画)
4.0
https://shimacinema.hatenablog.com/entry/Tata_muta_muntii

物語は至ってシンプル。前妻との間の息子が遭難した状況で、父親はただ待つことしかできない。救助隊に一緒に登るといっても体力が切れて途中リタイア。救助隊も事前の前で人間は無力だといって最善を尽くしているように見えない。そこに夫を支えたいと現在の身重な妻も合流してしまう。苛立ちが募る中、一体何ができるのか。
 
彼はツテを駆使して情報局を捜索に介入させる。例えその方法が違法でも、なりふり構わずシステマティックな捜索が展開される。これまでも問題が生じれば権力や財力で周囲を黙らせ解決してきた強行突破型の男は、典型的な自分の半径1メートル以内が助かればそれでいいタイプの人間だろう。だが、人を見下して思うがままにコントロールできても、自然がそうはいかない。
 
本作はそんな人間のエゴイズムを揺さぶり、人間の命に重さや価値の違いがあるのかと天秤にかけてみせる。雪崩に合っておそらく助からず、人間にやれることには限界があるとは分かっているものの、これ以上続ければ他の人々を道連れにし深みにはまるかもしれないと分かっていながらも、実際に姿が見えるまでは諦めきれない。だが、息子の捜索よりも救える命を優先すべきなのかもしれないと、銀世界で悩むことになる。
 
父親として、人間として、どのように行動すべきなのか。シンプルな状況だからこそ、そこで下す男の決断の重さと、無線にも応答せずにひとりで闇雲に雪を掘り続ける姿にすべてを託す物語の切り上げ方に好感が持てる。
りっく

りっく