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ロスト・ドーターのmoryのネタバレレビュー・内容・結末

ロスト・ドーター(2021年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

サマーバケーションでギリシャのキオペリを訪れた文学教授レダの半生を周囲の人々との関わりの中で繊細に描き出し、「女」としての死に至り、「母」としての生を甘受するに至る物語。
 
素晴らしかった。レダという人物の内面は複雑で、若い頃は奔放さの中に自責の念を捨てられず、歳を取るにつれて妬みや嫉妬や諦めを抱え込み、若さと老いの間、愛と自由と束縛と責任の間に翻弄される美しくも哀れで愛しい女性でした。このとんでもなく表現し難く、しかしながら我々の中にも存在するであろう感情を、ただ過去の回想だけに留まらず、多様な人々との関係性の中で描き出す様子に心震えました。

オリヴィア・コールマンの演技が素晴らしかったです。48歳という年齢で表現されうる若さと老いの全てを見せてもらった気がします。原作があるようですが脚本と監督も素晴らしいと思います。マギー・ギレンホールの長編初監督作品なんですよね…?すごいな、もともと映像の方の勉強もされていたのでしょうか…?

心に残ったシーンはたくさんあるものの、ハッとさせられたのが、レダが映画館で若者達に馬鹿にされ、涙ぐみながら退場するシーン。本当に何気ないシーンなのですが、彼女の中で失われゆくものへの憤りと悲しみを感じさせられたシーンでした。

これを記載するのは若干憚られる気持ちになるのですが、近年観た映画の中で1,2を争うレベルで感情移入しました。1,2を争ってるもう1作品がゼロの未来というのもなんとも。

もう少し噛みしめたい作品なので、後でまた感想を書き足すかもしれません。皆さんの感想も楽しみ。



感想拝読してきました。この作品のテーマの一つに「老い」(老いによる精神的な変化、老いることの哀しみ)を強く感じたのですが、それについて言及されている方がいらっしゃらなくて意外でした。

この作品におけるニーナの立ち位置はとても面白くて、レダはニーナに過去の自分を見ており、ニーナに親切にすることで家族から理解されることは無かった過去の自分を抱擁する一方、現在のニーナを直視することでもう自分には戻らない美しさ、もしその気なら家族と共に生きる選択も捨てる選択もできることへの妬みを募らせていると感じました。

ニーナに刺されたことで女としてのレダは殺され(葬らざるをえず)、母親として生きていかざるをえなくなる。最後はそういうシーンだったと解釈しています。

自分のように感じた方は少数派なのかな。それか、レダの母親としての役割に関する感想が先立つため、この辺言及される方が少ないのかな。

本作、アカデミー賞にもあまり絡んでいないのがまた意外です。リコリス・ウェストサイド・ドリームプランはまだ観てないですが、他の作品賞ノミネート作品より個人的には本作を推します。
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