ピポサル

ベルファストのピポサルのレビュー・感想・評価

ベルファスト(2021年製作の映画)
4.7
そこに住む全員が家族のように接する故郷を後にする者と残る者。慣れ親しんだ土地を去る決意は並大抵ではないけど、悲哀というよりはユーモアを交えて全員を応援するようなつくりになっているのはベルファスト出身であるケネスブラナーのこだわりを強く感じる。いやーめちゃくちゃよかった。
ここ最近平気で2時間半を超えてくる長尺の映画が多かったせいか、思い切りの良いテンポ感がかえって余韻に浸れる。帰りに寄ったスーパーでの買い物がなんだか楽しく感じられたよね。

チキチキバンバンを家族みんなで観るシーンは本当に尊い。あんなに純粋に、そこにいる全員と一体となって何かに没入できるのって実はめちゃくちゃ幸せなことなのではないか。あと、それまでは淡々と振る舞っていたジュディデンチおばあちゃんが最後に玄関のドアにもたれていたのが印象的。そういえば悲しそうな顔は劇中すべてガラス越しになっていてはっきりと映っていなかったような。誰かが涙を流しているのもたぶんなかったし、バディたちにとって映画は"楽しむもの"として描かれていたように、本作が重苦しいトーンに絶対にならないようにした、確固たる意思があったように思う。

家族や住民同士の会話は広角で全員が映るようにしていて、なんというか日常感が溢れていたし、それによって顔のアップは幸せな暮らしのなかにある目を背けられない不安をより一層強く描写している。全体を通して白黒とは思えないほどリッチな映像だった。

なぜ二項対立で物事を考え分断が起こってしまうのか、それを説法のように唱えるのではなくどのような選択を取るにしてもそこに暮らす全員を応援し、ベルファストが本当に素晴らしい町であるということを観客に伝えようとしている映画。ある土地に根付く住民たちの暮らしを描く作品がやっぱり好きだと実感した。
ピポサル

ピポサル