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ベルファストのryoのレビュー・感想・評価

ベルファスト(2021年製作の映画)
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冒頭の現代の風景のカラーから白黒の過去の通りへ移り、雑踏の中を移動する男の子を捉えた映像は実にウェルメイドで、上手に作らはったなあ、と若干意地悪な気持ちで観ていたんだけど、精巧に造られたつくりものめいた空間(それは後から考えれば、監督自身が投影された子供の眼から観た、おもちゃ箱めいたベルファストのイメージなのだろう。《ジョジョ・ラビット》)に、祖母(ジュディ・デンチ)と祖父(キアラン・ハインズ、ベルファスト出身)が時間的な地層を与えた途端、ぐんと立ち上がるものがあった。幕切れは家族の旅立ちを見送る祖母の科白。去った者の側から、見送った者、残った者を追想する、これはやはり記憶の映画。

音楽はベルファスト出身のヴァン・モリソンで、父親役のジェイミー・ドーナンがやはりベルファストの出身、母親役のカトリーナ・バルフもアイルランド、ダブリンの生まれ。しばらく自分がスコットランド出身の作家の作品に関わっていたこともあって英国の周縁性に敏感になっていて、シェイクスピア俳優として知られ、Sirの称号で呼ばれるケネス・ブラナーが、自らの出生と北アイルランド紛争についてのこのような映画を撮ったということ自体をとても意義深く感じる。
彼は、移民に対する“敵対的環境(hostile environment)”を掲げる2012年以降の、あるいはBrexitで孤立主義を深める2016年以降の英国の中で、どんなことを感じてきたのだろう。
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