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ちょっと思い出しただけの8637のレビュー・感想・評価

ちょっと思い出しただけ(2022年製作の映画)
4.2
延期になってもタクシーのデザインはずっと「TOKYO2020」で、家を出てすぐの地蔵を拝む癖がまだ残ってて、...顔についたケーキを舐めてくれる彼女はもうここにはいない。

過去に遡るという不思議な映画体験は、実験的な立場でありながらも近頃それほど珍しくもない。それでも7月26日、誕生日という少しだけ特別な一日を切り取る特異的な演出は「ボクたちはみんな大人になれなかった」とまた違った。締め方もこっちの方が上手。
「どうやって出会ったのか」より先に「どうやって別れるのか」の究明があり、切なさが分かるからこそ出会いの瞬間が甘酸っぱい。"いない"という感触はあるけど、二人ともの視点から描かれるから喪失感はない。
観る側からしたら"ちょっと"じゃないくらいに惹きつけられた。傑作。

照生の乗るタクシーを運転する葉の姿が素晴らしくて、伊藤沙莉の王道女子的な可愛さを初めて知れた気がした。鑑賞前、自分の恋愛経験の乏しさが邪魔しないか心配してたが、彼女はそんなペーペーの自分でさえも心のどこかに抱いているような"あの頃の彼女"像そのものだった。照生は知らないけど、あれから引きずり続ける所とかも。無論、長髪池松壮亮もなかなかイケてる。
あと特筆すべきは、松居大悟監督のモブキャラの出し方って上手いなって事。出番が少ないから豪華だと思っていたら最後まで関わっていたり、無難に哀愁を振りまいていたりと。

"夜にしがみつく"から"朝で溶かす"へ。照生のそんな進歩が見られた朝焼けに、夜のイメージがあった主題歌がやけに合っていた。
「ナイト・オン・ザ・プラネット」は事前に観ておいて損はなかった。二人の思い出の一部でしかないけど、二人がどれだけあれを観て、影響を受けているかが理解できて、自分も笑えた。二人が別れてから、まだジャームッシュは一本しか撮ってないよ!まだ間に合うよ!って本気で思っていた。


追記:目次立樹さんってどこで出てたんだ?
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