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私は貝になりたいのTSのレビュー・感想・評価

私は貝になりたい(2008年製作の映画)
3.9
【戦犯たちの末路】82点
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監督:福澤克雄
製作国:日本
ジャンル:戦争
収録時間:139分
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こういう映画にはめっぽう弱い。世間的にはあまり評価は高そうではないですが、テーマがしっかりしているため自分はこの評価です。従来の戦争映画であれば、戦争自体が人権を脅かし、あってはならないものなのだよということを伝えている場合がほとんどでしたが、今作はまた一味違います。戦争で運良く生き残れても、その後幸福な人生を歩めるとは限らない。そういう皮肉めいた現実を描くとともに、まさに人権とは何なのだということを訴えかけています。

とある町の理髪店で働く清水豊松はある日ついに臨時召集令状が届く。選択の余地はなく、豊松は丸坊主にして軍隊に加入していくのだが。。

こう見ると、自分たちが生きている今がいかに平和で有難いものなのか理解できます。普通に仕事をしている中でそんなものが届いてしまったら誰だって青ざめてしまいます。いくらお国のためとは言え、無事に帰ってこれる確率は高くない。自分の家族を捨ててまで行ける覚悟が果たしてどれくらいあろうか。豊松は心の中では大変ショックだったでしょうが、大きな抵抗はせずに軍隊に加入します。これだけでも途轍もなく偉い。自分だったら無理ですわ。

で、訓練を経て現場でも血眼になりながら戦うのですが、実は今作のメインはここではありません。そう、今作は戦後処理がメインとなってくるのです。割と早めの段階で戦争が終わり、豊松は無事に町に帰ることができ、普通に仕事をしています。どう展開していくのか?と思いましたがそこからが怖いところ。豊松は戦犯扱いされ、刑務所に送られてしまうのです。

ここからが歯痒いところ。その理不尽な裁判は一瞬『それでも僕はやってない』を彷彿させられましたが、理不尽さはその比ではない。弁護しなければならない立場のものが、意味のない質問を豊松にふっかけてはまわりは失笑。これでは裁判ではなく誘導尋問であります。そしてその結果、豊松は最悪の判決をされることになります。百歩譲ってあらゆる命令を下してきた将官クラスの人物ならばまだしも、豊松はせいぜい二等兵。将官の命令は天皇の命令であると解釈し、それを遂行したまで。いや、遂行すら出来ていない。失敗している。しかし、そこだけを取り上げてこの判決はどうなのか。人権を全く無視した裁判です。

なるほど犯罪者に人権など皆無なのかと思われましたが、その後の獄中生活は案外緩い。外に出て運動も許されているし、面会やほかの囚人の部屋に訪問するのもok。どうせ全員殺されるからという大目の判断でしょうか。それほど悪い環境には見えませんでした。その獄中生活において、豊松は様々な人と出会い、そして自分の潔白を証明しようとしていきます。これがドラマチックであり、また切ない。

最後は伏せておくとして、今作は戦後処理に焦点をあてた映画であり、戦犯とされた者の末路を鋭く描いた映画でした。豊松を演じた中居正広はあまり映画での演技は見たことありませんでしたが、終盤の演技は相当なものと感じました。タイトルはふざけているかもしれませんが、まさしくその通りかもしれません。こんな状況であれば、娯楽などの概念がなく、恐らく喜怒哀楽もない貝になりたいといってみたくもなるでしょう。
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