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叫びとささやきの一人旅のネタバレレビュー・内容・結末

叫びとささやき(1972年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

イングマール・ベルイマン監督作。

【ストーリー】
病に犯されたアグネスは屋敷で静かに暮らしている。そんなアグネスを家政婦のアンナは親身になって世話をしている。アグネスの姉カーリンと妹マリア(リヴ・ウルマン)もアグネスの病状を心配するのだが・・・。

人間の建前と、心に秘めた本音(本質)を暴きだしている。
姉妹という固定的関係ゆえ、表面上はアグネスを愛しているように装うカーリンとマリア。でも実際は愛してなんかいない。義務感でアグネスの傍にいるだけだ。人間は極限状態に置かれた時に、初めてその人の本質が垣間見えるのではないだろうか。この映画で言えば、死んだはずのアグネスが助けを求める場面がそうだった。何ものにも勝るほどの強い愛があるならば、アグネスへの愛とアグネスがもたらす恐怖を天秤にかけた時に勝るのはアグネスへの愛であるはずだ。でもカーリンもマリアも結局はアグネスを愛してなんかいないことを明らかにしてしまう。なんて残酷なんだ・・・。

家政婦のアンナだけが愛の人だ。アグネスとアンナには血縁関係などない。雇い主と家政婦という間柄。言わば他人も同然のはず。それなのにアンナは死んだアグネスが助けを求めた際には、一切の恐怖心を見せずに、まるで母親であるかのようにアグネスの遺体を優しく抱擁した。愛の有無を、血縁という生来の結びつきだけで判断することは間違いなのかもしれない。事実、カーリンは自身の子どもも夫も愛することができなかった。

本当の意味で不幸なのはカーリンとマリアではないだろうか。アンナは他人への愛を抱くことのできる聖母のような女性だし、アグネスもまたアンナの愛を感じ取ることのできる女性だ。それにアグネスは人生における幸福を、たとえ束の間の幸福であったとしても享受することのできる純真性も兼ね備えている。一方、カーリンとマリアは両者とも結婚していながらも、愛を知らずに生きている。
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