七瀬

レイジング・ファイアの七瀬のレビュー・感想・評価

レイジング・ファイア(2021年製作の映画)
5.0
2回目の視聴。

ストーリーとアクションがちょうど良い塩梅で、2時間があっという間だった。

ストーリーとしては、正義感の強い警察官と、警察への復讐を果たそうとする元警察官との戦い……といういわゆる王道なもの。

アクション映画はどうしてもストーリーの部分が薄くなりがちというか、まあ尺の関係もあって余計な部分はカットせざるを得ないんだろうなとは思うんだけど、
それでもこの作品は、セリフひとつひとつに無駄なく登場人物の想いを乗せている印象を受けた。

アクションシーンは長々語るまでもなく素晴らしいのだけど、とりあえず「子供を轢きそうになった瞬間急ブレーキかけて車から飛び降りて子供を抱えて車の上に乗る」……とかいう、文章で説明できないシーン、意味がわからなくて大好き。

そしてニコラス・ツェーの演技が本当に上手すぎて……というか、現在のシーンと過去回想で表情が違いすぎて(仔犬が狼になったかんじ)、本当に同じ時期に撮ったの???と疑いたくなるくらい別人だった。

私は常々ドニー・イェンは「怒り」の演技が上手すぎる人だと思ってるんだけど、今回は「怒り」の中に消すことができない「哀しみ」が内包されていてとても良かった。




※ここからネタバレ※




色々と書きたいことがあってまとまらないのだけど、どうしても悪役であるンゴウにずっと感情移入してしまって、なまじラストを知っているだけに涙が止まらなかった。

後輩たちが犯人を殴り殺した事実を隠すことはできず、きちんと罪を償わせたボンは確かに正しい行動をしているのだけど、
目先の「正しさ」しか見ていない行動は完全な善ではなくて、結局はンゴウの善性を壊すトリガーになってしまったんだと思うと、これはまごうこと無くボンの罪なのだと思う。

いや、違うな。この行動自体が罪なのではなく、その後面会にも行かず(彼らとの対話をしようとせず)、完全にンゴウたちを「見捨てた」形を作り上げてしまったことがボンの落ち度だろうと思う。

ボンの審問のシーンで、仲間達が「自分たちも責任を取る」って入って来るけれど、
あれはボンがンゴウたちにやるべき行為だったはずだと考えてしまう。
もう少しなにか、なにかひとつでもンゴウたちに対して寄り添いを見せるアクションをしていれば、と思わずにはいられない……。

「直接俺に怨みを言え」「あんたは来なかった」のシーン、ンゴウはもっとボンと対話することを望んでいたんだろうなと。

取り調べ室でのンゴウの表情、あの不敵な笑顔の裏にどれだけのものを抱えているのか考えただけで哀しくて、見ていられなかった。(そう思わせる表情ができるニコラス・ツェーはすごい)

そしてラストシーン、ボンは警察官として最後の仕事かもしれないあの状況で、「俺たちは逆だったか?」のセリフをどう受け止めたんだろう。

でも、この答えって冒頭にあるような気がする。ボンとンゴウは、ちょっとしたタイミングの違いから全く別の人生を歩むことになってしまったけれど、ふたりの決定的な違いはボンが「上からの命令であっても、自分で善悪の判断をして行動できる」ところなんだよな。
結局、これがボンの正義を正義たらしめている大きな要因なんだと思う。
だから彼は、光の当たるところにいられるのだろうな。
その正義が、どんな時にも「正しく」作用するとは限らないのだけれど。

しかし、大切だったンゴウとの死闘の末、涙を流したボンはこの先何を想いながら生きていくんだろう……。

この物語は本当に誰も救われないんだなあ……。
七瀬

七瀬