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オッペンハイマーのmendeのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.0
<核兵器の恐怖はこれで伝わるのだろうか>
オッペンハイマーという悪魔の兵器を作った人間の半生が描かれる。
時間軸を混ぜていることで、より面白く、目が離せない映画になっている。このあたりの手腕はさすが。
登場人物が多く、しかも知らない人物が多かったが、見せ方のうまさもあってあまり長さを感じなかった。

ソ連のスパイ容疑を問う聴聞会、つまりは赤狩りについてのシーンが思ったより長かった。女性関係を含め、些細なことまでこの場で明らかにされて問い詰められる理不尽。さらにストローズ(ロバート・ダウニーjr)の公聴会のシーンもかなりある。重要人物だけあって政治的な駆け引きにも巻き込まれる。

ナチスドイツとの競争があったとしても悪魔の兵器を作り上げた責任は逃れようもない。彼が水爆の開発に反対し、核兵器の開発競争を危惧するのは当然なのだろう。

ただこの映画を見て核兵器の恐ろしさは伝わるだろうか。オッペンハイマーの苦悩は伝わったと思うけど、その苦悩の原因である原爆の非人間性は伝わったんだろうか。
広島、長崎のシーンがないことについて賛否あるようで、確かに被災シーンを入れるとそれが見せ物のように扱われてしまうのかもしれない。ただ、私たち日本の観客は、これまでのハリウッド映画で核兵器の被害についてあまりに軽く扱われてきているのを知っている。個人的には一般のアメリカ人は原爆の被害について、きのこ雲の下で人間がどうなってしまうのかということについて無知なんじゃないかと思う。この映画でもセリフで少し言及はあったけど、それにしても軽い。
オッペンハイマーが、原爆で女性の顔の皮膚がはがれるのを想像してしまうシーンがあったが…皮膚が溶けて髪がずり落ち、眼球が飛び出すくらいでないと、主人公がなぜ苦悩しているかわからないのではないか。
原爆投下から80年近くたって、オッペンハイマーも含め、この映画の登場人物たちもほとんど死んでしまっているだろう。でも日本には被爆者手帳を持っている方が現在でもまだ10万人くらいいるのを忘れないでほしい。
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