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オッペンハイマーの1のレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.0
まず、シンプルな感想を↓

前半30分の知的興奮と、童心に帰られせてくれるような科学者のピュアな科学的探究心,視点への同一化により、ずっと泣きそうな気持ちになりながら画面を観ていた。またIMAXシアターの最前列で観た為、視覚効果と音響効果による没入感で半ばトランス状態に。

「数式は楽譜 人は指揮者である」という言葉に心の底から共感しつつ、理論物理学の先端を走る研究者がどんな世界を見ているのかを垣間見る事が出来た気分になれる最高のサイエンス系ムービーに「やっぱりノーランはこういうの描かせると当代一だ!」と心の中は既にスタンディングオベーション状態

一方で、中盤以降は多視点的に聴聞と裁判のシーンが織り混ぜられ、出てくる研究者もかなり多かった為、
この人知ってる!といった研究者も多々居たものの途中追いつけなくなりそうな部分もあった。
しかし、一応1900年代の量子力学の流れについては凡そ把握していた事と、政治的にもこの辺りの時代史については関心がある方だったので大枠の部分では着いていきやすかった。また、白黒とカラーで場面を切り分けれてくれているので、時間軸もかなり分かりやすく表現してくれているな、という配慮も感じた。(ただシャッフル編集映画を見慣れていない人には辛いかも)

以下作品の解釈について↓

人類に核の力を与えてトラウマに苦しみ続けた彼を、人類に火を与えて罰を3万年受けたプロメテウスに重ねて描く。
神話、可視化される過去。
まさに近代アメリカにとって、マンハッタン計画は赤狩りや宇宙開発と同じく神話化された時代史を映し出す1ページだったことを冒頭から見せつける比喩のインパクトである。

ピカノのキュビズムアートを眺めるオッペンハイマーにおいて示唆されるのは量子力学という多面的な実在性、一方でこの作品はポストトゥルース的な歴史解釈をすること無く、
色んな解釈があるよね、という逃げに走ることも無く、オッペンハイマーの私的歴史という形でひとつの結論を出している。
それはクリストファーノーランの出した1つの解釈でもあり、本作品のプロデューサーであり妻でもあるエマ・トーマスの解釈でもあるのだろう。
一方で、オッペンハイマーの単なる成功譚として描かずに、彼の抱える矛盾を様々な他者(妻や愛人,友人,ストローズなど)を介して表現しており、中盤以降の物語の中心人物になるストローズはそのストッパーとして大きな役割を果たしている。

原爆の実際の被害の様子を映像に載せなかったシーンについては、宮崎駿監督の『風立ちぬ』を思い出させつつ、何十万も死ぬ戦争,そして原爆投下がアメリカにとっては全くもってリアリティのない事実として受け止められていたことを痛感させる効果があるという意味でよいと感じた。

アインシュタインとオッペンハイマーの会話の内容を最後に持ってくる部分については、ノーラン節をとても感じたが、物語の軸になっているオッペンハイマーの科学的探究心と贖罪意識についての種明かしが詰まっているというのが物語構成として本当に素晴らしいと感じた。
また、彼が人類滅亡というリスクを承知の上で研究を進めていくという研究者の性を感じさせられ、ある種ホラーに近いような恐怖感にも襲われた。
この映画全体を通して科学哲学者が見た場合の感想をとても聞きたい。
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