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オッペンハイマーのmiumiuのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.3
公開初日に鑑賞。
「原爆の父」オッペンハイマーを描いた作品。
クリストファー・ノーラン監督作品だからアカデミー賞抜きにしても観たかった。
私はそこまでノーラン信者ではないので手放しで絶賛!とはいかないけれど、それでも傑作だと思った。
これはオスカー授賞式前に観たかったな…

クリストファー・ノーランが脚本も手掛けているものの、実在の人物しか出てこない原作ありきなこともあり、思った以上に伝記映画だった。
が、時系列や視点を巧みに入れ替えて繋ぎ合わせているのがいかにもクリストファー・ノーラン作品。
そして、地方のシネコンではこれまで聴いた記憶のないほどの大音量&音圧だったことに驚いた。身体にズシンと響くほど。
音楽がずっと大音量で響いていることもあり、前半は何だかMVなどのイメージビデオみたい。
そしてその大音量が後半の原爆実験シーンなどで最大限に効果を発揮する。

クリストファー・ノーランは若手俳優の発掘にもそれなりに意欲的だと思うのだけれど、今作は登場人物の年齢層が高いためか、ひたすら有名俳優揃いで豪華なキャスティング。
もともとノーラン組で満を辞して主演のキリアン・マーフィは、神経質そうな雰囲気と誠実そうな様子とどちらにも合うことで、まさにハマり役だったと思う。
キリアンの美しい青い目を生かした演出も、「分かってやってます」感が強かったなあ。 
ファンとしてはありがたい。

場面としては、戦時中の「マンハッタン計画」と戦後の聴聞会とがモンタージュ的に描かれる。
戦後パートはオッペンハイマーと、対立するストローズ(演じているのはロバート・ダウニー・Jr. )それぞれの視点をカラー / モノクロで描くことで、裁判ではないものの法廷劇を見ているような緊迫感が伝わってきた。
原爆開発に関しては「ナチスより早く開発を成功させるため」「戦争を終わらせるため」という大義名分のもとプロジェクトを主導していたオッペンハイマーが、原爆を生み出したがゆえに水爆開発には否定的だったことが分かっただけでも良かった。
もちろん原爆を落とされた側の国の人間としてはもっと詳細に描いてほしかった気持ちはあるが、実験シーンや投下地を決める会議の場面だけでも充分つらい。
そして兵器の効果と惨状を知らない民衆は勝利に拍手喝采するだけな一方で、何が起きたかを知る者は一生悔やむことになる。(このシーンは本当に怖かった。)
戦争を過去のものとせず、「知ろうとする」ことはとても大切。

そして、日本では「太平洋戦争の敗北=戦争の終結」だが、欧米ではその後の冷戦期があり、戦争は決して終わることなく日常の中で続いていく… という恐ろしさも伝わってきた。
米ソ冷戦期の赤狩りの緊迫感の中で過去を掘り出され追い詰められていくオッペンハイマーの姿は、疑惑だけで追い詰められていく恐怖と理不尽さがダイレクトに伝わってきた。
これまでも赤狩りを描いた映画は観たことがあるけれど、事実無根のことを証拠であるかのように持ち出されスパイ扱いされていく怖さという点では今作が随一。

世界で戦争が多発する昨今の世界情勢の中で、兵器開発の負の側面を描いただけでも意義深い作品ではあると思う。
ただ引っかかるのは、クリストファー・ノーラン作品で戦争を描いた作品は今作で『ダンケルク』に続き2作目になるが、テーマに対して問題意識を持って取り組んでいるのか、あくまでも自分の作家性を表現するための手段として「戦争もの」を扱っているだけなのか、作品を観てもいまひとつ伝わってこないところかな…
この点については、これからインタビューなどを読んで理解を深めたいと思う。
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