miumiu

落下の解剖学のmiumiuのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
4.2
アカデミー賞脚本賞受賞、カンヌでパルムドール受賞ほか、様々なAwardsを席巻した作品。
オスカーでは、受賞した脚本賞に加え、作品賞をはじめとする5部門でノミネート。
私の住む地方でもやっと上映開始したから早速鑑賞してきた。

雪山の山荘で転落死した夫を殺害した容疑で逮捕・起訴された妻で作家のサンドラ。
事件の当日居合わせたのは視覚障がいを持つ息子。
果たして他殺なのか自殺なのか事故なのか… なミステリー&法廷劇仕立てのドラマ。


オスカーでも話題だった飼い犬スヌープ役のメッシちゃん可愛かったー!
そして思った以上に作品内での役割が重要だった。注目されるの納得。

今作、設定はミステリー&法廷ものではあるけれど、テーマは謎解きとは別のところにあると感じた。
そしてそのテーマも、観る人によって解釈が全く違いそうなところが面白い。
以下、私の感じたこと。
(※ネタバレには気をつけたいけれど、どうしても内容に触れてしまうのでネタバレ完全NGの方は観てから読んでください)


私が観て感じたテーマは、情報をいくらでも得られるようでいてその情報をどう切り取られるか分からない、そして先入観によってどう解釈されるか分からない現代社会の危うさについて。

冒頭から主人公サンドラと学生の何だか噛み合わないインタビューシーンがあり、夫が流したらしい大音量の不安定な音楽でインタビューは中断され、「何だか不穏な映画だな…」という感覚が残る。
オープニングクレジットで出てくる若き日の夫婦の写真は、イケメンで人当たり良さそうな夫と、あまり笑わず堅い印象のサンドラ。
観る人によってはサンドラに対してあまり良い印象を抱かないんだろうな。

事件現場に残る証拠は少なく、居合わせた息子ダニエルは音と触覚の記憶に頼るしかない。
また、夫婦の喧嘩の証拠としてたまたま残っていたのは音声のみで、そこから想像を膨らませて判断するしかない。
その状況でサンドラの印象が悪ければ、想像や憶測は悪い方に働く。
息子ですら自身の判断を決めかねるんだから、他の人ならなおさらだよな…
物語が進むにつれ夫が抱えていた問題が明かされ、前述の写真についてもサンドラが笑顔の写真も出てくる。オープニングクレジットの情報はあくまでも断片的なものだということが分かる。
が、最初に人に対して悪印象を抱いてしまうと、それを覆すのはなかなか難しいと思う。

飼い犬と並んで鑑賞前にSNSで話題沸騰で注目していたのは、サンドラの友人かつ弁護を引き受ける弁護士でもあるヴァンサン。
こちらも超ホットなイケメン弁護士ということで、「サンドラと何かあるんじゃないの…?」と視聴者の疑いを誘う意味で、うまく物語上の役割を果たしていたと思う。
他にも、妻が人気作家で夫より稼いでいる設定、サンドラがドイツ人で、フランス語は解すが話すのは苦手な設定(裁判でも最初は弁護士チームの助言でフランス語で話そうとしていたが、物語後半はそれをやめて英語で話すようになる)などなど、観る人の価値観でサンドラへの見方が左右されそうな設定が多かった。

よく練られた設定の中、いくら曖昧な証拠しかないとは言え、検察側の言い分があまりにも想像ばっかりでフワフワしていた(なのに犯人だと決めつけている)のは、さすがに違和感があってイラッとしたな…
「フランスの司法制度、それでいいわけ?」
とか思ってしまった。

そして今作のストーリー、もしも立場が逆で死んだのが妻、容疑者が夫だったとしたら、
「家事などの疲れからくる鬱症状→自死」
で片付けられて、裁判にすらなっていない気がするんだよなあ…
主人公サンドラが「自身の体験をもとに作品を作る」タイプの人気作家であることが、女性ゆえに不利に働いている気がしてならなかった。

以上、あくまでも私の解釈。
ミステリー仕立ての作品ということで事前にあんまり感想を読まないようにしていたので、これから他の方の感想や解釈を読んで理解を深めたい。
miumiu

miumiu