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オッペンハイマーのasobunのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
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世の中を前進させる為の科学、その誇りと技術、信念が科学者にあったとしても、為政者側は、科学者の思想や信念よりも自らの権力の保持や拡大という欲の計算でしか物事を捉えていない。科学を便利な道具としか認識していない。使い捨て。だからこそ、国家にとって不都合な発言をするオッペンハイマーを罠に嵌める様な行為も厭わない。
科学者は新たな理論や実験によって、新しい技術を産み出す事は出来ても、その実施の有無や結果の良し悪しに関わる事は出来ない。蚊帳の外に置かれる。使い捨ての道具の様だ。それに既視感があった。コロナ禍での政府と専門家チームの関係性も同じ様な不甲斐なさがあった。
物理学の新しい夜明け、理論や実験によって新たな発見がもたらされた、輝かしい時代、その最先端に原爆の開発があった。
ただその開発には輝かしい未来だけじゃなく、大量殺戮を可能にしてしまう負の側面もあり、その事を指摘する科学者の言葉は重い。実験過程で被害の実相の予想なんかも議論されているシーンもあり、科学者たちの人間としての苦悩も描かれていた。ただ時間は待ってはくれない、ドイツが負けた今、敵は日本のみ。字幕に日本って出てくる度に居た堪れない気持ちになる。ケツは決まっている。引き返す事は出来ない。自分が希望と期待と未来を託した技術がもたらす絶望と悪夢、取り返しのつかない後悔、自責の念、それは壮絶な体験だろう思う。原爆の産みの親という日本人の自分からすると、悪の親玉みたいなイメージだったが、彼の為人、栄光だけではない苦悩と後悔を垣間見て、彼の人間的な側面により興味を持った。
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