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首のasobunのレビュー・感想・評価

(1968年製作の映画)
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武の映画じゃない方、監督森谷司郎、脚本橋本忍、傑作「八甲田山」のコンビによる映画化。
劇中で合理化と正義みたいな台詞があり、組織を守る為には、本来の意味する事とは異なる独自の正義や論理によって成立していて、それを合理化という名の下に無理矢理にでも遂行する。その結果の隠蔽や改竄。なんだか現代的である。
戦争が悲惨さを増していく戦中日本、炭鉱の村で村人が警察の尋問後に不審死、脳溢血との診断だか、村人達は納得いかず、弁護士(小林桂樹)に捜査を依頼。事件の矛盾を追求する弁護士。対立する組織の論理と正義の分厚い壁に阻まれ難航する捜査。隠蔽と改竄を重ね、弱き者の人権を蔑ろにする検察と警察。検事役の神山繁の高圧的で神経質で陰湿な風貌、いかにも役人然とした、融通の効かなさが良い。組織の事務手続きや人事の縦割りシステム、事務と人事の悪弊がもっと描かせれていたら良かったな。小林桂樹の真面目で誠実で信頼の厚い弁護士が、正義と真実を追求し過ぎる余り、ノイローゼを加速させ、焦燥と狂気に駆り立てられる様はシリアスながらどこかコミカル。
確たる証拠は埋蔵された遺体の生首を持ち去り、解剖する事、その為に如何に警察の監視を潜り抜けるか、無理筋とも思える行動も正義と真実を追い求めるノイローゼ気味の男の前では実効あるのみ。生首狩り珍道中の相棒の呑気なマイペースさが小林桂樹の鬼気迫るシリアスさと対象的で面白い。あれやこれやで事件は何とか解決されるが、その後、弁護士は事件以来、変わりなく仕事に邁進したみたいなナレーションが流れるが、あの事件以来、弁護士はどこか暴力的なまでに真実と正義を追い求める姿に鬼気迫るものを感じさる描写が恐ろしい。正義や真実の追求は人を魅了し狂気に駆り立てる魔力がある。それが正しい場合は問題ないが、間違いである場合、現代の様に陰謀論に陥る可能性も捨てきれない。紙一重である。そういう部分では、50年以上前の作品ながら現代的である。
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