ひろぽん

オッペンハイマーのひろぽんのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
3.8
第二次世界大戦下にアメリカで立ち上げられた極秘プロジェクト「マンハッタン計画」。これに参加したJ・ロバート・オッペンハイマーは優秀な科学者たちを率いて世界で初となる原子爆弾の開発に成功する。しかし、原爆が実戦で投下されると、その惨状を聞いたオッペンハイマーは深く苦悩するようになる。冷戦、赤狩りなど激動の時代の波に、オッペンハイマーはのまれていく。J・ロバート・オッペンハイマーの人生を描いた伝記映画。


「原爆の父」と呼ばれるJ・ロバート・オッペンハイマーが原爆を作りあげるまでの物語かと思いきや、原爆を作った後の話が主軸のストーリーとして描かれる。

主に1954年の「聴聞会」FISSION 原爆(核分裂)のカラーパートと、1959年の「公聴会」FUSION 水爆(核融合)のモノクロパートの2つの時間軸で構成されている。

カラーパートではオッペンハイマー視点、モノクロパートではアメリカの原子力委員会の委員長であるストローズ視点で描かれる。

聴聞会は行政から受ける不利益処分に際して意見を話す場であり、公聴会は何かを決定する時に利害関係者や専門家から話を聞く場のことをいう。


オッペンハイマーは、ハーバード大学を飛び級で首席かつ3年で卒業し、その後ケンブリッジ大学に留学するという天才っぷり。だが、教授の林檎に細工をしてしまうなど奇行が目立ち精神を病んでいる所から物語が始まる。

量子力学に魅了された頭の硬い天才かと思いきや、女性関係にだらしがなかったりと人間らしい弱い部分も描かれるため、血の通った一人の人間なんだと感じた。

聴聞会では共産主義のスパイ疑惑や機密情報保持に言及されており、原爆を作る過程はそれらに繋がる過去の回想として登場する。


「マンハッタン計画」という難題を、後世に名を馳せる天才科学者たちを招集して原爆を完成させてしまうのは本当に凄い。科学者達が実験に専念できるように、荒地に人が住めるようにインフラを整えて町を作ってしまうのだから凄すぎる。

トリニティ実験のとてつもない爆破シーンは鳥肌が立つほど圧巻のシーンだった。実験を前にしてその場にいた人々はどんな心境だったのだろうか。


ユダヤ人であるオッペンハイマーは、ホロコーストでユダヤ人を虐殺していたヒトラー率いるナチス・ドイツに対する軍事力として原爆開発を進めていたのに、ヒトラーが自害しドイツ軍が降伏したため、降伏するかも分からないという日本に使われざるを得なかったというのがまた何とも言えない気持ちになる。

原爆を作った者達にも、原爆を使った者たちにも罪があるのだろうと思うけど、彼らのもたらした現実はとてもつもないものなんだと改めて思わされた。

物理学300年の集大成が大量破壊兵器の製作
と言われてしまうのはなんだか虚しい気持ちになる。

広島、長崎の原爆投下の直接的な描写がないのは、あくまでも原爆を完成させたオッペンハイマー達科学者の目線なのだろう。どんな悲劇を生んでいるのか直接的には目にしていないから。

自分たちが創り上げたものに魅了されてしまい、後に起こる悲劇の事など考えもしなかったのだろう。


国を守るためという大義を掲げ一時は国民を救ったと英雄視されるも、その一方で大きな惨劇を生んでしまったというオッペンハイマーの苦悩が上手に描かれていると思う。

アインシュタインとオッペンハイマーの2人に交流があるというのは全く知らなかったので勉強になった。

「水爆の父」と呼ばれるテラーがオッペンハイマーを裏切るような行為をしたり、オッペンハイマーが大衆の場でストローズに大恥をかかせたことでストローズが彼を本気で排除しようとしたというのも面白い。水爆の使用に反対するオッペンハイマーと、愛国心のあまり核兵器の開発を進めたかったストローズ。聴聞会と公聴会で清算した結末がそれらを物語っている。


登場人物が50人以上いるので事前に情報を入れてから鑑賞しないと理解できない内容になっている。歴史的出来事や登場人物を整理しながら鑑賞することをお勧めする作品。

キャストはかなり豪華だし、難しいテーマの主演を演じきったキリアン・マーフィの演技力も素晴らしかった。

1回の鑑賞だけでは全てを把握できないボリュームだから、何回か鑑賞してこの作品を理解していきたいと思う。



“我は死なり、世界の破壊者なり”
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