ひろぽん

四月になれば彼女はのひろぽんのレビュー・感想・評価

四月になれば彼女は(2024年製作の映画)
3.5
精神科医・藤代俊のもとに、かつての恋人・伊予田春から手紙が届く。“天空の鏡”と呼ばれるウユニ塩湖からの手紙には、十年前の初恋の記憶が書かれていた。ウユニ、プラハ、アイスランドと世界各地から届く春の手紙。時を同じくして藤代は、婚約者の坂本弥生と結婚の準備を進めていた。だが、弥生は突然姿を消してしまった。「愛を終わらせない方法、それは何でしょう?」その謎掛けだけを残し、春はなぜ手紙を書いてきたのか?弥生はどこへ消えたのか?やがてふたつの謎は、やがて繋がっていく。愛することとは何かを描いた物語。


大学時代の年下の元恋人・春からかつて一緒に行くはずだった場所から届く手紙と朝日の写真。
現在の恋人・弥生が結婚直前になり「愛を終わらせない方法、それは何でしょう?」という言葉を残し、行方をくらます。過去と現在の記憶が交差し、藤代は姿をくらました弥生を探しに行くお話。

ウユニ塩湖(ボリビア)、プラハの街並み(チェコ)、ブラックサンドビーチ(アイスランド)と美しい海外の壮大な景色がとても綺麗。長いMVを観ているような感覚になり、静かな場所での映像と森七菜の優しいナレーションにより心が落ち着く。

結婚や愛に関する現実に抱える問題の問いの答えを鑑賞する人に委ねる構成で、作中で明確な答えが伝えられることはない。そもそも正しい答えなんかないのかもしれない。現代の悲観的でリアルな結婚観が全面的に押し出されていたように感じた。


作中の台詞で登場する心に突き刺さる共感できる言葉の数々。

“愛を終わらせない方法、それは何でしょう”
“愛を終わらせないためには、手に入れないこと。”

“人間は自分のそばにいる自分を愛してくれる人を容赦なく傷つける。”

“私たちは愛することをさぼった。面倒くさがった。”

“1人の孤独は耐えられるけど、2人での孤独は耐えられない。”


これまでの過去の恋愛経験では自分の中で言語化できなかったり、腑に落ちなかった感情が、全て言語化されて腑に落ちるような感覚になった。長年付き合っていると、2人で居ることに慣れてどんなに好きな人でも愛が情に変わり、愛することをサボってしまう瞬間はあるし、真正面から向き合うことが面倒くさくなってしまうのかもしれない。

愛を終わらせない方法の答えが現実的でとても切なかった。

春のお父さんの春が居ないと眠れないとか部屋中にある写真の数々は気持ち悪い。それでも、写真一枚一枚は呼吸しているようで、その時の情景が思い出されるという発言は分かるような気がした。

結婚直前にパートナーの元カノに会いに行って看取るという弥生の行動もなかなか恐ろしくてヤバい人なんだなって思った。

バーのマスターをしているタスクが藤代に伝える言葉は全て確信をついた正論ばかりで納得するものが多かった。

佐藤健を始めとする、長澤まさみ、森七菜、仲野太賀のメインの役者たち全員の演技レベルが高くてそれを観ているだけでも楽しい雰囲気だった。


主題歌の藤井風の『満ちてゆく』の歌詞がピッタリ作品の内容とマッチしていて心に刺さるし、メロディが最高に良い。教会で短時間でメロディを作り出したというのだから本当に凄い。

予告の藤井風の『満ちてゆく』と海外の壮大な映像が気になり期待していたが、良くも悪くも予告が全てでそれを超えてくることはなかった。

恋愛経験が豊富な人には刺さるかもしれない感情が詰まっていた。登場人物たちの心に抱える全ての感情を理解し共感することはできなかった。どちらかと言うと年齢を重ねた大人向けの恋愛映画という感じな気がする。

観る人が歩んできた恋愛経験に大きく左右されるような、観る人を選ぶ作品なんだと思う。心に刺さる人も入れば刺さらない人もいる。愛について考えれば考えるほどよく分からなくなっていく。そういった意味で色々考えさせられる内容なんだろうな。

ラストは呆気なく終わるから少し物足りないように感じる。映像作品としては間違いなく美しくて素晴らしい。
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