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ノースマン 導かれし復讐者のらのレビュー・感想・評価

3.8
今までのロバート・エガースの作風と比べるとだいぶ挑戦的な規模感の作品なので正直そこまで期待値は高くなかったけれど、予想以上に楽しめた。迫力あるヴァイキングの雄叫びや唸り声が全編を支配し、高揚感のある音楽にダークかつハイテンションで暴力的な映像が2時間以上続くためけっこう疲れてしまったことは否めないが。

展開も常に早い。例えば主人公のアムレートが縄で吊し上げられるシーン。普通の映画では、しばらくそのままの状態に置かれ、やがて「やっと脱出することができた」という解放のカタルシスが訪れることが多いが、この映画ではすぐにカラスが集まってきて外してしまう。「早!」と思って少し笑ってしまった。

本作で最も素晴らしいと感じたのは撮影面だ。カメラ一台によるシングル・カメラ方式を採ったのが完璧に奏功していたように思う。あらかじめ構図やカメラワークをストイックに計算し尽くしていることが、あらゆるショットからしっかりと伝わってきて、北欧神話に基づくファンタジックな描写も多い中で、映画としての純粋な強度を保っている。アクション・シーンのアングルがやたらとコロコロ変わらないところも、独特の臨場感を生み出している。そういったスペクタクルの面だけでなく、炎やカラスなどの呪術的・象徴的な意味合いを持つ対象物を映し出す何気ないショットが、極めて禍々しく撮れているところも信頼に値する。とりわけ、炎("黒"が支配する映像の中で神々しく灯る)が映し出されているシーンは、どこをとっても特別な美しさと恐ろしさを湛えていた。

また、これは観る人にもよるだろうが、リベンジものであるにも関わらず、良い意味でほとんど感情移入ができない(終盤まで観たなら特に)。誰にも強く感情移入できないが、ほとんどの登場人物が不憫に感じられる。このバランス感覚が絶妙だと思った。
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