わっせ

ミューズは溺れないのわっせのネタバレレビュー・内容・結末

ミューズは溺れない(2021年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

冒頭の事件から、最初の階段までのシークエンスが百点満点。特に、絵画が出現するシーンが秀逸。(個人的にはここまでが映画のS#1かなと思っている)

真っ白な壁と、漏れ出る光。これも白。つまりあの空間は大きなカンバスなのかもしれない。そのカンバスの中に、思うように引けた線の集大成たる美しくみずみずしい絵画。それを見上げるふたりがいる。冒頭の"掴み"でありながら、この映画をすべて説明する素晴らしいシークエンスだった。

「溺れない」というタイトルもまたこの映画のすべてだろう。朔は自らの手で「方舟」を作り出したが、それは舟の本来の役割通り、大海原へと漕ぎ出し、乗り手に大きな推進力を持たせるものだ。朔はこれをつくり、家を替えても保持し続けようとする。この舟がある限り、彼女は大丈夫だと思わせてくれる。溺れていた彼女は、ミューズになったのだ。

「方舟」という言葉に、観た直後は違和感があったが、そういう"意思の保存"という点において、正しい選択だったと感じた。方舟のなかに、昔の家や、友人との思い出など様々なものを詰めて、未来へと残していく。彼女の方舟は、きっとこの先に破滅的ななにかがあっても、未来へと漕ぎ出し続けるだろう。

そしてこの映画最大の見せ場である音の遊び方。新しいことをやろうとする監督の意思を強く感じる、素晴らしい映画だった。願わくば、この作品が、監督にとって方舟とならんことを。

TAMA NEW WAVE最優秀賞受賞、おめでとうございます。本当にいい映画でした。
わっせ

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