わっせ

偶然と想像のわっせのネタバレレビュー・内容・結末

偶然と想像(2021年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

周囲の絶賛にやや置いていかれている。濱口竜介の映画は、映画に対する高いリテラシーを求められる印象だが、やはり自分にはそのリテラシーが足りないのかも。

他の濱口映画によく見られるような、氾濫寸前の膨大で力強いテキストを中心にした本作であるが、自分にはそのテキストが、量的な問題で合わないのだろう。テキストはどこかで右から左に流れていき、物語に置いていかれそうになる。その棹を失った小舟のような浮遊感と途方のなさが心地よい濱口映画は存在するのだが(自分にとってそれは「ハッピーアワー」であり「ドライブ・マイ・カー」だった)、本作はそれが感じられなかった。

物語のひとつひとつはおもしろく、笑えて、コメディ映画として質の高いものだった。しかし、自分が濱口映画に求めているのは、彼の映画でしか味わえない浮遊感であり、その流れのなかに操舵できない小舟を浮かべて、そこに手足を放り出して景色を眺めるような体験であるのだと思う。だから、短編として山があり、オチがあり、それが短いスパンでやってくる本作は、自分の舟の行方がわからなくなる前に拿捕されてしまい、極上の体験とまでは言えなくなってしまったのだろう。

また、濱口映画特有の演出や芝居というものも、むろん本作にあるのだが、それがどうも鼻につくというか、「あっ、スイッチが入ったな」「特にここを重点的に本読みしたんだな」と言えてしまうような、あからさまなものを感じてしまった。それは否応なくこの作品が濱口映画であることを物語り、自分の求めていた濱口映画とのギャップを際立たせていた。

作品としてはめちゃくちゃおもしろい、でも濱口映画として見たときには、自分の好みに合わない。総評としてはそんな感じ。



以下、不満。

1編目。一体あの女優は何歳の設定なのか。モデルの仕事が終わったときの様子ではあまりにも幼く見え、童顔も相まって、タクシーのシーンまでちょっと、いやだいぶ"ませた"高校生以下に見えた。しかし、社会人の男と付き合っていた過去があり、そのあたりから役がわからなくなった。その設定を飲み込むのに時間がかかり、この映画がコメディとして笑っていいものだという心構えをしておくことができなかった。
録音の乱れ。やっぱり録音って難しいんだなあ。

2編目。瀬川教授かわいそうすぎて笑えないオチがついていた。そこだけ後味が悪い。

3編目。ほぼ完璧だが、ショットが甘い。白飛びしまくった空見せられてもって感じ。
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