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イニシェリン島の精霊のdojiのネタバレレビュー・内容・結末

イニシェリン島の精霊(2022年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

岸田首相による「社会が変わってしまう」発言のニュースがあった日にみたこの映画は、変化についての作品のように感じてしまった。

生の意味と死の存在を意識することで変わってしまうコルムと、この島にはなにもないことを随分前から気づいていた思慮深い妹、そのふたりが象徴するのは日常の破壊そのもので、一見ピースフルで無害なようにみえるパードリックが、ふたりの変化によって暴力的になっていく。それはどこかナショナリズムの高まりにも重なるし、ラストの好戦的な姿勢は戦争に向かうムードをそのもののように感じる。

社会は否応にも変わってしまうものだし、そのことに注視せずに生きることは、逆説的に狂気にもなりうるのだと思う。国のトップが世界の変化に背を向けようとしているなか、パードリックの頑なな態度をみていると、なんともおそろしい気持ちになってくる。巨大な暴力はやはり平凡さの中から生まれてしまうのかもしれない。

『スリービルボード』でも感じたけれど、マーティン・マクドナーは関係性の変化が登場人物の人格自体に劇的な変化を与える展開が抜群にうまいなとおもう。ほかの作品も観なくては。どこかベケット作品の風格もある傑作だった。
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