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イニシェリン島の精霊のsimpsonsのネタバレレビュー・内容・結末

イニシェリン島の精霊(2022年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

これはめちゃくちゃ面白かった!
普遍性を持ったテーマで誰もが自分の経験と重ね合わせることができる所がこの映画の上手いところだと思う。
アイルランド内戦の寓話でもあり、人同士の喧嘩も戦争も根底は同じだということに気付かされた。


社会の閉塞感については日本社会もよく似ている。退屈で当たり障りの無い会話、ゴシップ好き、人の手紙を平気で見る、自分の気に触るといい歳して結婚してないという野次、教養のある者や人と違う生き方をする者、持つ者への嫉妬
教会の神父さんの差別的発言や偏見、警察官のパワハラ、自らが法であると自身の価値観を他者へ押し付け、自分の意見が聞き入れられないと暴力を振るう
このような人はどこにでもいるし、皆多かれ少なかれそういう要素あるけど気付いていない。自分と異なる価値観をありのままを受け入れることの難しさ。
 

教養、知性、芸術、生き方に関する問いかけ
自分も退屈な人だと感じたらその後付き合おうとは思わないし、自分もそう判断されていると思うから、コルムの気持ちが分かる。自分もこの人嫌やなと思うと話したくなくて無視してしまうことがあるから反省。
この島には退屈な人しか残らないのではないか、それは組織や国も同じで、優秀な人は魅力のない場所からはどんどん出ていく、そんなことも示唆しているように思う。

パードリックは側から見ていると愚かだなと感じつつも、例えば恋愛面においてはもう一度仲良くしたいとか、優しくされたらまだ脈があるんじゃないかとか、周りの人に嫉妬したり、こう出たら相手も変わるんじゃないかとか思ってしまうところに共感できる部分はあるし、客観的に見てると人の気持ちがわからん人やなーと思いつつも、人は誰しも相手のことなんてお構いなしに自分のエゴをぶつけていることがあると思う。コルムは放っておいて欲しいと言ってるのだから構わないのが愛だけれど、パードリックは自分を見て!ばかりで期待や見返りばかりを求めて、本当の愛では無い。だけど、こと恋愛や家族においてはそういったことはよく起こっている話だと思う。そして本当には人の気持ちなんて分からない(本人ですら分からないことがある)点においても共感でき、私はコルムでもありパードリックでもある。

ある日突然戦争が始まり、そこに至るには過去の記憶があり(あのときあんなことされた、信用できないなど)、和解に至るかと思ったら要らんこと言っておじゃんになったり、同盟国に嘘言って離れさせたり、大切なロバが死んで更に憎しみが生まれて攻撃したり、紛争がおさまることはない。皆んな自分のエゴのために自ら動き周りを動かせ、お互いに正当性を主張して、こじれにこじれて解決できない。側から見ると愚かで滑稽な様子だと言いたいのだろう。
指を切るというのは自らを傷付けている行為で、人を攻撃すると自分も傷付くということを表しているのかなあと思った。
戦争で言うと、自国民も亡くなってしまう。

能面については芸術や異国文化への敬意を感じるとともに、人は皆仮面を被っていること、能面は角度により見える表情が変わるために、見る人により受けとる感情が変わること、また本人ですらも気付かぬ多面性を持つことを表しているのかなと感じた。

良い人だというパードリックがどんどん性格が変わっていくこと、コルムと2人を結びつけるものは同じ価値観、動物であったことなど、興味深い。
シリアスな内容をブラックユーモアで描くシュールさが好み。また観る人によって色んな見方や解釈が成り立つ、面白い映画だと思う。
精霊、怖過ぎ!
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