nico

BLUE GIANTのnicoのネタバレレビュー・内容・結末

BLUE GIANT(2023年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

劇場に見に行こうか迷って機会を逃した作品。劇場で見れば良かったと後悔。感動の声が非常に多い今作。私も視聴後の余韻は凄かった。ただ泣けるとかではなく圧倒された&共感した。レビューの中には自称?ジャズ通の方や作画やCGへの批判が目立つものもあるが、そもそもこの作品の1番のテーマが「技術ではなく情熱」であること故にそれらの批判は監督の意図する事(本質)と真逆であると捉えられる。

私自身もピアノを弾く者として、ジャズはそこそこに嗜む身として視聴。夢追いストーリーとして「少年ジャンプ」のような展開たったら萎えると思いながら視聴。「スラムダンク」は漫画もアニメも映画も全て未視聴だがあらすじのみ聞いたことがある。スラムダンクのような展開だったら微妙だなぁと(スポコンが苦手)思いながら視聴していたが、思いのほかジャンプのような三大原則『友情・努力・勝利』は少なかった。サクセスストーリーをドラマとして魅せる為には綺麗事も多少は欠かせないのだろうが、その点も過度でなく良かった。

私が良かったと感じたシーンは雪祈が事故に遭うシーン。そう来たかと嬉しいサプライズ。このまま綺麗に終わって欲しくなかった。素晴らしい演奏を聴く為だけに視聴するのも価値がある作品ではあるが、やはり脚本も楽しませて欲しい。そう言った意味でもこのハプニングは良かった。

そしてラスト。ラストも賛否両論あるようだが、私はラストが一番良かった。雪祈が片手のみで演奏するシーン。素人で歴の浅い他2人と異なり英才教育の技術で固め、才能をひけらかす横柄な態度が目立った彼がピアニストとしての命である右手を失った事で皮肉にも覚醒する。他の2人よりいち早くエリート教育を受けていたが、『ジャズを心から楽しみ愛するという「本物」としての覚醒』は一番遅かったという皮肉。しかし左手のみになった彼の「SO BLUE」での演奏は彼史上一番の最高のステージとなったのは間違いない。ピアノを弾く身の私としても心震えるピアノの演奏であった。片手のみの少ない音でも心打つ情熱を感じた。

作画やCGについてだが、私は全く気にならなかった。むしろ敢えて荒削りな見せ方なのではと勘繰った。カメラのフィルムなどは敢えて汚して傷を付けて泥臭さを見せる手法がある。監督はそれを狙ったのかどうか分からないが、いずれにせよ狙ったのならそれも良し、そもそも私は作画に注目する暇もなく音に魅了されていた。

実写では出せないアニメだからこその臨場感。カメラワークやカット割り…その場の客席にいるような熱が伝わってくる。

努力すれば必ずしも夢が叶う訳ではない。がしかし情熱の高さが夢を身近に引き寄せる可能性をテーマとして持っている。昨今、諦めの早い傾向のある若者への叱咤激励でもあったりするのか?タイパやコスパ、技術、そういったコストや数や経歴に縛られない純粋に夢を突き詰める気持ちを教訓として映画に盛り込んだか?実際に劇中のシーンで「最近の奏者は普通に上手いだけで面白みがない奴ばかり」といった台詞がある。成功への執着、成功したら怠惰に成り下がり仕事と割り切る…昨今のそのような情熱が足りないことへの憂いを監督は伝えたいのかと勘繰った。


単なるサクセスストーリーとして見るのではなく、夢を追う上で一体なにが一番大事なのか、本気で『それ(夢)』を楽しめない愛せない熱くなれない時点で自分の気持ちはその程度と知ること。

人の心を震わす演奏、演技とはいつの時代に於いても『技術』ではないこと。情熱が伝わるからこその理屈を超えた感動が生まれる。技術は二の次。情熱の先に技術は自ずと着いてくるだろう。但し本気の場合のみ。生半可で生温い気持ちならば努力が着いて来ないからだ。

最後に主人公の吹き替えを担当したのが声優でなく俳優であったが、青臭さや泥臭さが声で見事に演じきれており、彼もまた深い情熱を持ってこの仕事に取り組んだのだと悟った。
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