SPNminaco

ボイリング・ポイント/沸騰のSPNminacoのレビュー・感想・評価

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全編ワンカットで縦横無尽に動き回るカメラ。でも混雑したレストランの密度とか、活気や熱はあまり感じない。見せるのはそういう、エネルギッシュなワンシチュエイション群像劇じゃなかった。料理でもない。
それよりも伝わるのは、このレストラン全体がコミュニケイション不全であること。大勢の中での孤立。嫌われ者オーナー、若いスタッフ、スーシェフ、フロア係らは業務連絡や情報共有が上手くいってないし、我侭なお客への対応も助け合いする余裕なし。そもそも、シェフのアンディはここのところ仕事に集中せず、私生活でも問題を抱えてこの日も頼りにならない。ダメだこりゃ。
カメラはアンディを追うだけでなくそれぞれの視点に切り替わることで、このバラバラにまとまりのない動線を浮き彫りにする。お互いにお互いをよく見ていない、定まらない視線。オープンキッチンなのに、個々の事情や背景は表に出てこないので知る由もなく、様々に他者とのコミュニケイションが軋んでいる(オーナーが飲みに誘うのもたぶん初めてらしく、そういう潤滑油が足りなかったんだろう)。パティシエさんだけが気配りできる良心だったなあ。
そんな負のスパイラルが限界に達し、それぞれを追い詰め、アンディに集約されるまで。店では救助を要請する事件(案の定そうなると思ったけど…味噌か!)が起きるが、アンディはヤケクソ気味に謝ってばかりで、必要なヘルプを言い出せない男である。それが不幸な事態を招くのだ。生焼けなら焼き直せばまだいいけど、覆水盆に返らず。後の祭り。「もっと早く言ってくれたらいいのに!」
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