蛸さんの映画レビュー・感想・評価 - 12ページ目

10 クローバーフィールド・レーン(2016年製作の映画)

4.1

オープニングから提示される情報の少なさは、観客と主人公の同一性を保ちます。この映画は主人公の一人称映画です。
冒頭の事故で気を失い、そこから目覚めた主人公の視線を追体験させるようなカメラワークの巧みさ
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イット・フォローズ(2014年製作の映画)

4.3

この映画の舞台はアメリカの、エドワード・ホッパーの絵画に出てくるような郊外です。舞台からしてそうですが、全体的にカーペンター版の『ハロウィン』を彷彿とさせる箇所が多いです。劇中のテレビで登場人物が古い>>続きを読む

暗黒街の顔役(1932年製作の映画)

4.4

長回しによるオープニングシークエンス、口笛を吹く犯人の影のみを映した犯行場面とくればフリッツ・ラングの『M』が想起されます。(『M』はこの映画の前年公開ですが影響関係はあったのでしょうか。もしくは、映>>続きを読む

プッシャー3(2005年製作の映画)

4.2

『プッシャーシリーズ』は三部作を通して、どうしようもない現状から抜け出そうとするけれども、結局上手くいかない男たちの物語を描いています。
3作目の主人公はミロです。これまでのシリーズでは裏社会のボスと
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偉大なるアンバーソン家の人々(1942年製作の映画)

4.3

例によって映画会社の介入で、ウェルズの思った通りの作品にはなっていないそうですが、流石の完成度です(後半の駆け足感は否めませんが)。他のウェルズの作品よりも、これ見よがしでハッタリの効いた演出が控えめ>>続きを読む

赤い河(1948年製作の映画)

4.2

オープニングや幕間に挟まれる本をめくるショットは、この物語が代々伝承されてきた昔話であるということもあって効果的です。だからこそ物語はとても規範的な父と子の対立を描いたものなのです。(二人は実際の父子>>続きを読む

マルタの鷹(1941年製作の映画)

4.0

ハンフリー・ボガートはこの映画ではサム・スペードを演じていますが、『三つ数えろ』ではフィリップ・マーロウも演じていて正にハードボイルドの権化のような俳優だと思いました。
ハメットの原作は心理描写を排し
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この世界の片隅に(2016年製作の映画)

4.6

主人公のすずは(おっとりしていますが)戦時下にあっても日々の日常を楽しく生きることができる(ノリノリの節約料理など)、悲惨な状況でも「ふつう」にいられる強さを持ちあわせた女の子です。
登場人物に対する
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プッシャー2(2004年製作の映画)

4.2

このレビューはネタバレを含みます

今度は一作目の主人公フランクの相棒のトニーが主役です。
どうしようもないバカなダメ人間なんですけどフランクと違って彼にはどこか愛嬌というか、可愛らしさみたいなものがありますね。
冒頭、刑務所の中でトニ
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私はゾンビと歩いた!(1943年製作の映画)

4.3

黒沢清や稲生平太郎が絶賛する作品ということで見て見ました。
邦題は原題の直訳なんですね。
このゾンビは謂わゆるロメロの「モダンゾンビ」以前のブードゥー教のゾンビで、夢遊病者くらいのニュアンスの存在です
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ボーダーライン(2015年製作の映画)

4.2

今やハリウッド映画の一ジャンルとして定着した感のある「メキシコ麻薬戦争モノ」ですが、世界大戦や、ナチス、冷戦などの題材と違って過去のものではないという事実が恐ろしいです。
最早、単純明快な悪役は成立し
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ルーム(2015年製作の映画)

4.0

親子が「へや」に閉じ込められている前半は中々にサスペンスフルです。
障害物に当たりまくるラジコンが否が応でも部屋の狭さを引き立てます。
無造作な映像はホームビデオのような効果を上げています。これが親子
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溺れるナイフ(2016年製作の映画)

4.2

このレビューはネタバレを含みます

突然の引越しのせいで、車の後部座席でふてくされる主人公(夏芽)を見て『千と千尋の神隠し』を想起しました。彼女はその後、立ち入り禁止区域である「神さんの海」にある鳥居の向こうでコウと出会います。コウは現>>続きを読む

クリーピー 偽りの隣人(2016年製作の映画)

4.4

まず、モロにサイコパスをテーマにした映画だけあって香川照之のサイコパスっぷりが凄まじいです。
妙な会話のズレ、話の噛み合わなさや、人間関係におけるあやふやなラインの中で図々しく立ち回る様など細かいセリ
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サムライ(1967年製作の映画)

4.2

極限までセリフを削ぎ落とした脚本や画面の隅々にまで行き渡った美意識、青を基調とした彩度の低い透明感のある映像から思い起こされるのは北野武の諸作品やレフンの『ドライヴ』などでしょうか。作家性の強い監督が>>続きを読む

ヒメアノ〜ル(2016年製作の映画)

4.4

赤裸々に自己を(淀みなく)曝け出しつつも、どこか超然としたような雰囲気をまとった、登場人物たちはどこまでも古谷実的です。
特に安藤さんを演じるムロツヨシの喋り方の古谷実感はすごいと思いました。(僕は
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遊星よりの物体X(1951年製作の映画)

4.3

これでもかと言わんばかりのおどろおどろしい雰囲気のオープニングからして素晴らしいです。
全体的にやたらテンポが良い演出で、間延びする隙がありません。上映時間も87分。

大筋は、北極に墜落した円盤から
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ぼくの伯父さんの休暇(1952年製作の映画)

3.9

寄せては引く波をカットで割った(つまり反復に反復を重ねた)オープニングは、ギャグの基本である「繰り返し」を暗示しているようです。一夏が終わり、エンディングでユロ氏がホテルの他のお客さんたちから「また会>>続きを読む

キャビン(2011年製作の映画)

4.1

このレビューはネタバレを含みます

『死霊のはらわた』と『トゥルーマンショー』を混ぜ合わせる際に、既存のホラー映画のお約束を利用したメタ構造と「ホラー映画」に対するリスペクトを繋ぎに使って出来たような映画。
タイトルのフォントと、その出
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西遊記 はじまりのはじまり(2013年製作の映画)

3.6

プレ西遊記。『西遊記』の、というか伝奇モノの特徴でもある、物語以前の物語のドギツさ、荒唐無稽さ、身も蓋もなさとチャウ・シンチーの漫画的な演出は相性が良い。(奔放で奇想天外なイメージを映像化するために技>>続きを読む

フランケンシュタイン(1931年製作の映画)

4.4

しょっぱなの、プロデューサーのレムリJrの挨拶から始まるオープニングのおかげで、見世物小屋的な怪しげな雰囲気が漂っていてゾクゾクさせられる。
映画は墓場泥棒のシーンから始まるのだが、この墓場のセットの
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ストレイト・アウタ・コンプトン(2015年製作の映画)

4.2

NWAのグループとしての成功と仲間割れ。チームものとしての魅力が強い作品。それは幾度か繰り返される、メンバーの横並びのショットからもよくわかる。
成功までの展開はかなりスムース。当たり前だけど実際の歴
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ミイラ再生(1932年製作の映画)

4.0

エジプト感満載のオープニングから雰囲気出てて楽しい。
『フランケンシュタイン』で有名なボリス・カーロフの存在感がすごい。落ち着いた、幽玄で不気味な佇まいや、顔力による役の説得力が半端じゃない。
イムホ
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ハロウィンII/ブギーマン(1981年製作の映画)

4.2

カーペンターが監督してる一作目はもちろん神がかった傑作だけど2作目も良い。マイケルの主観ショットの長回しや、「志村うしろ」的な展開など一作目を踏襲した演出が多々見受けられる。
『ハロウィン』シリーズを
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世紀の謎・空飛ぶ円盤地球を襲撃す(1956年製作の映画)

3.6

素朴なファーストコンタクトもの。宇宙人も地球人も割と好戦的で(地球側から攻撃してるけど)何のてらいもなく争い始める。
宇宙人vs地球人(実はアメリカ)という構造に疑問を抱かせたりはしないストーリー展開
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フォロー・ミー(1972年製作の映画)

4.3

妻の浮気を疑う夫は探偵を雇って妻を尾行するように命じる。しかし次第に探偵と妻は惹かれあっていき…という大筋。
主な登場人物は3人。で三角関係を題材にしたベタな話なんだけど、ドロドロした展開にはならない
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パンダコパンダ 雨ふりサーカス(1973年製作の映画)

4.1

前作で、パンダがいることはすでに日常風景と化してしまったので、さらなる非日常の要素がぶち込まれる。
視点を変えての冒頭部分から始まって、新しいキャラクターの登場なども楽しいけれど、個人的には舞台の町一
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パンダコパンダ(1972年製作の映画)

4.0

トトロの原型っぽいパンダと少女の日常アニメ。
日常の中の非日常であるパンダの存在を焦点に組み立てられたストーリー。別になんてこともない話なんだけど、キャラクターの一挙手一投足が魅力的。
ばりばりリミテ
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ペントハウス(2011年製作の映画)

4.0

タワーの従業員の年金を取り返すために、ペントハウスに住む資産家の部屋に強盗しにいくお話。
最初はグランドホテル方式のコメディなのかと思ったけど、途中からケイパーものになっていくあたりも面白い。
仲間集
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イリュージョニスト(2010年製作の映画)

4.3

ジャック・タチの残した脚本をショメがアニメ映画化。
主人公はジャック・タチ本人をモデルにしたマジシャン。
生命を付加する(アニメイトする)魔術であるアニメーションが、死者であるタチを蘇らせる。

手品
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君の名は。(2016年製作の映画)

4.0

新海誠は「離れていてもつながっている2人」というモチーフが好きなのかと思った。ある意味で『秒速5センチメートル』の語り直しなんだけれど思い切ったSF要素によって、秒速にあった現実的なツッコミどころや、>>続きを読む

葛城事件(2016年製作の映画)

4.6

家族という在り方の持つ負の側面が徹底的に描き出される。普段はポジティブなものとして使われがちな「家族」という言葉が絶望的な響きを伴って聞こえてくる映画。
映画では現在進行形の、死刑囚となった実と獄中結
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スーサイド・スクワッド(2016年製作の映画)

3.9

デヴィッド・エアー、a.k.a.暗黒面に落ちたJ.J(by町山智浩)の最新作。
これまで硬派でシビアなテイストの作品を手がけてきた「21世紀のペキンパー」街道まっしぐらのエアー監督。そんな彼がDCの悪
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秒速5センチメートル(2007年製作の映画)

2.8

ウジウジした男が、何年も忘れられない初恋にしがみ続けていたけれどようやく過去の想いを振り切ることができた…というだけの話。主人公は人として乗り越えて当たり前のことに何年もかけて、しかもそれが美化して描>>続きを読む

欲望のバージニア(2012年製作の映画)

4.0

1930年代、禁酒法時代。密造者のボンデュラント三兄弟の成り上がりと、彼らと悪徳補佐官の対立。
この時代を舞台にした多くのギャング映画と違って、大都会じゃなくて田舎が舞台なので牧歌的な雰囲気がある。(
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BROTHER(2000年製作の映画)

4.3

ヤクザ同士の抗争によって日本を追われた男が、アメリカの裏社会を舞台に再びのし上がり、破滅するまで。こう書くとギャング映画の定型的な栄枯盛衰の物語のようだが流石に北野武、語り口が尋常じゃない。
具体的に
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