「好きだったのに!サッカーやってる三人、好きだったのに…」(一美) 高校二年生ながら、プロ顔負けのプレーで観衆を魅了する男・久保嘉晴。そんな彼に憧れて掛川高校サッカー部に入部した田仲俊彦(トシ)だったが、現実は思っていたほど甘くはなかった。怪我の療養のため、一度も姿を見せない久保。そのせいでロクに練習しなくなった先輩たち。中学時代、“掛西中の三馬鹿トリオ”として共に活躍した平松和広も白石健二もいない…。そんな中、幼なじみの少女・遠藤一美がトラブルを起こした。
「読まれていた…三人揃ってしたのに。これが…高校サッカーか…!?」 (トシ) トシたち一年生部員と副主将・神谷篤司率いる二年生部員が、レギュラーの座をかけて戦う事になった。戦力に不安があった一年生チームだったが、一美の呼びかけで、勉強に専念するためにサッカーを諦めていた平松と、走り屋になっていた白石が復帰。電撃入部して“掛西中トリオ”を再結成する。これでまた三人でサッカーができる!張り切るトシたちは、自らの実力を証明できるのだろうか?
「お前は練習するな。お前のレベルじゃまだ基礎訓練だ!」 (久保) 神谷たち二年生はトシたちを受け入れ、掛川サッカー部は一丸となってインターハイ地区予選に挑もうとしていた。そんな中、ついにあの男がサッカー部に戻って来た。サッカー部の主将を務める若きファンタジスタ・久保嘉晴だ。憧れの人を前にして舞い上がるトシ。だが久保は、そんな彼にだけ冷たく接する。いったい何故…?ひとりだけ通常練習から外されたトシは、校舎の片隅でシュート練習するよう言い渡されるが…。
「世界的名プレイヤーからもらった、大事なボールなんだ」(平松) 久保は決してトシをいじめていた訳ではなかった。彼が自分にだけ冷たく当たる本当の理由を知ったトシは、課せられた特訓にひたすら打ち込もうとする。だが、ひそかに想いを寄せる一美が久保に夢中になり、気になったトシはボールに集中することが出来ない。平松もサッカーに打ち込むことを認めようとしない父と対立。鬱屈した想いが膨らむ中、二人と白石は、後にライバルとなる少年と思いがけない出逢いを果たす。
「行けるところまで行け!一歩でもボールをゴールに近づけろ!」 (久保) インターハイに向け、いよいよレギュラーが発表されることになった。創立されてわずか二年という掛川高校サッカー部には、二年生と一年生しか在籍していない。トシたち一年生にもレギュラー獲得のチャンスは充分にあるのだ。だがトシは、レギュラーになることに大きなプレッシャーを感じていた。今の自分に大役を担うだけの実力があるか、疑問に感じ始めていたのだ。次々と選手の名前が読み上げられる中、胸を高鳴らせる彼は…。
「一美、トシとカズヒロを頼む…」(白石) インターハイの地区予選が始まった。トシの得点力、平松のテクニック、白石の鉄壁の守備で、掛川高校は順調に勝ち星を上げてゆく。次はいよいよ優勝候補の一角、シード校の浜野高校との対戦だ。だが試合を目前にして、白石はトラブルに巻き込まれてしまう。昔の走り屋仲間から、近くナワバリを賭けた抗争があるので助けて欲しいと頼まれたのである。義侠心に篤い白石は放ってはおけず…。
「圧倒されるものがある。これが伝統ってやつか…」(白石) かつての名門・浜野高校との試合が始まった。浜野のエースナンバー10を着けるのは、一年生の小坂部直樹。ここ最近の浜野は奮わず、全国からも遠ざかっている。何としても選手を全国に連れて行ってやりたいと執念を燃やす監督が、異例の一年生エースの起用を決断して戦いを挑んできたのである。久保ひとりに三人のマークをつけるという徹底した戦術で、浜野高はなりふり構わず勝ちにくる。彼らがそんな戦い方を選んだのには、ある辛い理由があった…。
「俺だって、やればできるんだ!」(新田) 後半戦が始まるなり、浜野の動きがガラリと変わった。監督が執念を燃やす理由をマネージャーから打ち明けられた彼らは、一丸となって攻めに転じてきたのだ。一瞬も気を抜けない状況の中、掛川はメンバーを入れ替える。投入されるのは一年生の新田伸一、これまでは常に日陰の存在だった選手だが、ついに出場のチャンスが巡ってきたのだ。新田は努力なら人一倍積み重ねてきた。しかし、それでも彼には足りないものがあった。
「練習の成果を信じろ!! 」(久保) 浜野との一戦も、いよいよ大詰め。しかし掛川は絶体絶命の危機に陥っていた。PK戦に挑まなければならないのに、ゴールキーパーの白石が脳震盪を起こして退場してしまったのである。それに引きかえ、浜野は小坂部のポジションを中学で全国制覇を果たした時のゴールキーパーに戻し、圧倒的優位に立つ。鋭い読みと巧みな心理戦でゴールを死守する小坂部に対し、掛川の控えキーパーは次々と得点を許してしまう…。
「明日は休みなんでしょ、デートよデート♪」 (一美) トシが一美からデートに誘われた!?彼女に想いを寄せるトシは大喜び。気合いを入れたオシャレをして、少しでも関係を深めようと張り切る。だが、デートは単なる口実。一美は白石や平松と一緒に、ライバルである藤田東高校の松下浩を偵察しようとしていたのだった。がっかりするトシ。しかも偵察中、新たなトラブルが発生してしまう。親友で相棒の平松まで、一美に想いを寄せていることに気付いてしまったのだ。
「一美、お前は…どう思ってる?」(トシ) 平松が恋のライバルだと知って、トシは内心焦っていた。そのせいか、久保のテクニックまで軽々と習得して仲間たちから絶賛される平松が、とても妬ましく映ってしまう。平松と二人になった時の一美も、心なしかとても幸せそうだ…。思いあまったトシは、彼を一美に近づけさせないよう嘘までついてしまう。そんなトシを変えたのは、久保の恋人である北原美奈子が教えてくれた、久保のドイツ時代の話だった。
「掛川なんて怖くねぇよ、その久保だけのチームだからな」(藤井) 掛川の次の対戦相手・袋井工業には、緻密な分析で相手の弱点を突く策士・藤井大介がいた。久保や掛北の斉木誠と並び称される、静岡で指折りの選手でもある。そんな彼が突然掛川のグラウンドに現れ、自信たっぷりに言い放つ。「弱点は全て見抜いた、ここは久保だけのチームだ」と。彼は中学時代に久保のチームに敗退して以来、リベンジへの執念を燃やし続けてきたのだ。
「すべて計算通り!」(藤井) 袋井との試合当日、掛川は思わぬ事態に戸惑っていた。久保が突然試合に出られなくなってしまったのだ。司令塔であり絶対的なエースでもある久保を欠いた掛川イレブンは、藤井の指示によって動く袋井に弱点を突かれ、為す術もなく完全に封じ込められてしまう。勝敗の鍵を握るのはトシの左からのシュートだが、彼は特訓の成果に自信を持てずにいた。久保から電話で指示を受けたトシは…。
「何だかアイツ、オレたちのライバルになりそうな…」(トシ) ついに県大会ベスト8まで勝ち進んだ掛川高校。だが、浮かれているヒマなどない。藤田東の松下こそ自分たちのライバルになる…そう予感したトシは、白石や平松と共に偵察に行くことにした。彼らがそこで目にしたのは、松下の驚くほど高度なボールさばきだった。しかも同様に偵察に来ていた他校の一年生選手・広瀬清隆は、松下を上回るテクニックの持ち主だったのだ!
「なあ神谷。お前、サッカー好きか?」 (久保) 久保がドイツのクラブチームに移籍するという噂が広まった。動揺するトシたちに対し、副主将の神谷はあくまで冷静だった。彼はトシたちを叱って言う。お前たちは久保が信じられないのか、と。神谷はクラブチームに所属していた中学時代、ワンマンプレイヤーとして誰にも認めてもらえずにいた。荒む彼に相棒を信頼する気持ちを取り戻させてくれたのが、他ならぬ久保だったのだ。
「掛北と…いや、あなたと試合をするのを楽しみにしてたんです」(神谷) 県大会準決勝の相手は強豪・掛川北高校。静岡を代表する選手の一人、斉木誠が主将を務めるチームだ。優れたプレイヤーは斉木だけではない。長い手足と的確な判断力でゴールを守る三橋英二郎、ディフェンスの要・小山昌洋、藤田東で出逢った一年生・広瀬清隆。特に広瀬は、野球のボールで自在にリフティング出来るほどのテクニシャン。変幻自在のボール・コントロールで掛川イレブンを翻弄する!
「お前の並外れたサッカーセンスと誰にも負けないガッツで、あのシュートを止めるんだ!」(久保) 防戦一方の掛川イレブンに対し、広瀬は華麗なボールさばきで切り込んでくると、信じられないような位置からシュートを放ってくる。不規則に変化するナックルシュートは白石も防げず、いとも簡単にゴールを奪われてしまう。久保が最終ラインまで戻って守備に回るが、彼が前線にいなければ反撃の糸口がつかめない。やはり白石がナックルシュートに慣れるまで、ひたすら耐えるしかないのか…。
「この瞬間、伝説が生まれた…」(トシ) 掛川vs掛川北の地区予選準決勝。掛川イレブンはトシの活躍でどうにか食らいついていたが、依然として打開策を見出せないまま苦しい戦いを強いられていた。スタンドから声援を送っていた美奈子は、久保の様子がおかしいことに気付いて得体の知れない不安を抱く。苦しそうに顔を歪め、尋常でない汗のかきかたをしているのだ。それでも久保は国立の夢を掴むため、自らをムチ打つようにして走り続ける…。
「お前の左は本物だ。掛高のエースストライカーはお前なんだ」(久保) 自らの足で伝説を刻みつけたフィールドに、久保は力尽きるようにして倒れた。医務室へと運ばれる途中、彼はトシに掛高の命運を託した。お前の左足は本物だ、お前こそエースストライカーなんだと。だがタイムアップは間近に迫り、ピンチは変わらないまま。白石が広瀬のナックルシュートを止められないことには、PK戦に持ち込んでも勝機はないだろう。一人一人が限界を超える以外に勝つ術はないのだ。
「神さまみたいな…人だったんです」(トシ) 久保は短すぎる青春にタイムアップの笛を吹き、誰も追いかけられない高みへと上っていってしまった。突然の悲報をトシたちは受け入れられず、心にポッカリと穴が開いてしまう。だが、次はいよいよ県大会の決勝戦。藤田東を破れば念願の全国大会への道が開ける。久保は自分だけで問題を抱え込み、それを乗り越えようとしていた。今こそ彼の哀しみと強さを受け継ぎ、立ち上がらなければならない!
「つまらない練習をしてるなあ、これが日本のサッカー部か」(馬堀) 久保のいない掛高サッカー部は、まるで灯が消えたように沈んでいた。久保が残したものとは何か?自分たちは、これからどうするべきなのか?考えれば考えるほど、皆の気持ちは内にこもって沈んでゆく。そんな彼らを見て、転校生の馬堀圭吾が呟いた。「つまらない練習をしてるなあ」と。サッカー王国・ブラジルでプレイしていた彼から見れば、今の掛高サッカーは退屈以外の何物でもない。それを聞いたトシたちは…。
「…オカマバーだ」(大塚) 馬堀はブラジル仕込みの華麗なテクニックの持ち主だが、久保のことは全く知らない。彼の入部は、掛高サッカー部に思わぬ不協和音をもたらした。何の苦もなく受け入れる人間と、彼の加入で“久保のサッカー”が壊されると危惧する人間との間に溝が生まれ、次第に深まってゆく。すべては新主将の神谷がどうまとめるかにかかっている。彼はしばしの沈黙の後、仰天のプランを打ち出した。文化祭でお見合いパーティーをやろうと言うのだ!
「これからの掛高のサッカーを占う紅白戦になりそうですね」(監督) 掛川サッカー部に内紛が発生。久保の遺した練習メニューを、馬堀が無駄だと言い放ったのが発端だった。久保のメニューは弱点を克服するためのもの。それを達成した今、いつまでも同じ練習をしても意味がないと馬堀は指摘したのである。仲裁に入った神谷は紅白戦を支持。久保にこだわるトシたちと、馬堀のやり方に興味を持ち始めた平松たちとを対決させる。一美との仲を疑われていたトシは、平松の“裏切り”の原因が嫉妬にあると考えるが…。
「あんなに燃えてるみんな、見たことない!」(一美) トシたちのチームと馬堀のチームの紅白戦は続いていた。レギュラーのほとんどがいるはずのトシたちのチームは、なぜか苦戦を強いられる。トシはいち早く原因に気付く。彼らは久保が目指したサッカーの意味を勘違いして、知らず知らずのうちに理想のうわべだけをなぞっていたのだ。久保の想いを本当の意味で受け継ぐために、彼らはこれまでの固定観念を覆す驚くべき作戦で攻めに転じる。
「10番は、誰よりもサッカーが好きなやつがつけるんだ」(神谷) 冬の選手権大会に向けて、レギュラーが発表されることになった。期待と不安に胸おどらせる部員たち。彼らの興味は、もうひとつの問題にも向けられていた。久保の着けていた10番は誰が受け継ぐことになるのか?結局、エースナンバーはトシに託され、選手発表は誰もが納得する結果に終わる。だがトシ自身は、“久保の10番”にこだわるあまり、内心その重さに耐えられずにいた。自分には、まだこの10番は着けられない…。
「目標が出来た気がするのさ!」(トシ) トシと平松は一美に想いを寄せつつも関係を進展させることが出来ず、モヤモヤした気持ちを持てあましていた。白石はというと、トシの姉である田仲夏子に心を奪われていた。奔放な性格の夏子に振り回されつつ、そんな状況を楽しむ白石。トシは帝光学園の恩田朝之というライバルに出会って新たな一歩を踏み出し、白石は恋のスタートを切ったのだ。目標は冬の選手権、彼らはひとつずつ壁を乗り越えて進んでゆく。
「俺には重すぎるよ…」(トシ) トシにとって掛川の10番を着けることは、憧れ続けた久保と肩を並べる場所に立つこと。それは選手権大会の対戦相手や報道関係者、高校サッカーに関わる総ての人間にとっても同じことだった。ただでさえエースナンバーの重みに押し潰されそうだったトシは、高まる注目にプレッシャーを感じて萎縮してしまう。メンタル面の問題は思わぬミスを呼び、彼は泥沼のスランプに落ち込んでしまう…。
「あんたの前にその10番つけてた人は、一度だってそんな顔でサッカーやってなかったって事」! (一美) 10番のプレッシャーからイライラをつのらせていたトシは、ついに一美にまで八つ当たりしてしまう。怒った一美は、突然マネージャーを辞めてしまった。反省したトシは戻ってもらいたいと頼むのだが、なかなか機嫌を直してもらえない。ある日、彼女は不良学生に絡まれてしまい、危ういところでトシと白石が助け出す。不良学生たちは横賀高校のサッカー部員、ラフプレイで有名な次の試合相手だった。
「ハットトリック宣言!?」(白石) 雨の中で行なわれた掛川高校vs横賀高校の試合。横賀高校と試合をした相手は、ひどい時には病院送りにされるという。審判の気付かないところで反則級のラフプレーを繰り返す横賀イレブンだが、実力だってなかなかのもの。驚きの作戦でトシたちを窮地に立たせる。だがトシには絶対に負けられない理由があった。彼は一美と約束したのだ。ひとりで三点を叩き出すハットトリックを達成したら、サッカー部に戻ってくれるという約束を。
「グラウンドのトシくん、調子がよかった頃の久保くんにそっくり」(美奈子) 全国高校サッカー選手権の県大会も、いよいよ二次リーグが開幕。波に乗る掛川高校は、久保の10番を背負うトシの大活躍もあって順調に勝ち星を上げていた。ある日、意気上がるトシの前に美奈子がフラリと現れた。彼女は悲しい過去を振り払うかのように、長かった髪を大胆に短くカットしていた。どうやらトシに惹かれ始めているようだが…。彼女の目に映っているのは現在のトシだろうか?それとも、彼の横顔に重なる久保の面影なのだろうか?
「お前が自分の再来だと言われることを、久保が望んだとでも思っているのか!」(神谷) まるで久保くんのプレーを見ているみたい…美奈子にそう言われたトシはすっかり有頂天になった挙げ句、自分のプレースタイルを見失ってしまった。彼は憧れの久保になったつもりでワンマンプレーに走り、チーム全体のバランスを崩してしまう。選手間にも不協和音が走り、とうとう神谷が感情を爆発させる。一方、トシにかつての恋人の姿を重ねていた美奈子も、現実と幻想のギャップに苦しんでいた。トシはトシであり、久保の代わりにはならないのだ。
「サッカーなんて、ただの球転がしじゃないか」(芹沢) 斉木率いる掛川北高校と清水学苑高校の試合の勝者が、掛川の準決勝の相手になる。観戦に訪れたトシたちは、信じられない展開を目撃して愕然となる。掛北優勢だったゲームが、たった一人の選手の投入によって簡単に引っくり返されてしまったのだ。しかもその選手は一年生だった。芹沢直茂、たった二試合で“フィールドの魔術師”の異名をものにした天才肌のプレイヤーだ。彼は恐るべき才能を発揮し、広瀬のナックルシュートを簡単にコピーしてしまう!
「奴が魔術師なら、魔法が解けるのを待つんだ」(斉木) 掛川北高校vs清水学苑高校の、準決勝進出を賭けた試合の後半が始まった。掛北の斉木は、フィールドの魔術師・芹沢を徹底的にマークして喰らいつこうとする。サッカーを“ただのボール遊び”と鼻で嘲笑い、努力することを否定するような男に、汗と涙の三年間を否定されてしまうわけにはいかないからだ。そして試合終了。激闘を最後まで見届けたトシたちは、気合いを入れ直して特訓を開始する。
「神谷さん、そろそろですよ、奴の魔法が解けるのは」(白石) 掛川高校の準決勝が始まった。相手はフィールドの魔術師・芹沢を擁する清水学苑高校だ。早朝から特訓してきた掛川イレブンは、平松をマンマークで芹沢につけ、ディフェンスを固めてゴールを守る作戦に出る。確かに芹沢は並外れたテクニックとスピードを持っている。だが、彼には致命的とも言える弱点もあるのだ。掛川イレブンは、斉木から教えてもらった芹沢の弱点をつくため、懸命に守りながら魔術師の魔法が解ける時を待つ。
「さあ、暴れるぜ。反撃開始だ!」(神谷) トシたちの我慢の甲斐もあり、ついに芹沢の魔法の解ける時が来た。芹沢の動きが完全に鈍り、プレーも明かに精彩を欠き始めたのだ。清水学苑の他の選手は、彼の異変にまだ気付いていない。一点を追いかける掛川イレブンは、守備的なシステムをオフェンシブに変更して反撃開始。混乱して対応できない清水学苑の隙をついてシュートを決め、あっという間に同点に追いついてみせる。さあ、ここからが本当の戦いだ!
「歓声が、消えた…?」(トシ) 後半も残り時間は10分。今まで存在感をなくしていた芹沢が復活し、圧倒的なキレと瞬発力で猛攻を開始した。瞬く間にボールを奪われ、ゴール前に切り込まれる掛川イレブン。サッカーそのものをバカにしていた芹沢も、いつしかフィールドを駆ける一人として懸命にボールを追いかけていた。スコアは3対3のまま、勝負はロスタイムにもつれ込む。もはや小細工など必要ない状況だ。両者死力を尽くした激闘は、トシと芹沢のマッチアップで終幕を迎える!
「私がいなくなったら、寂しい?」(一美) 一美が芸能事務所にスカウトされた。掛高サッカー部にテレビ取材が入り、たまたま居合わせたところ、事務所の関係者に声を掛けられて名刺を渡されたのである。最初は興味がなかったものの、トシがレポーターのアイドルに骨抜きにされたのを見て、一美は何となく迷い始める。そして彼とのすれ違いが重なると、あてつけのために事務所を訪ねる決心をするのだった。二人の運命の歯車が、ゆっくりと狂い始めていた…。
「いったい、このチームに死角はあるのか…?」(トシ) 決勝の相手はライバル・松下浩を擁する藤田東高校か、それとも東海学園か?準決勝を偵察に来たトシたちは、ライバルの底知れぬ実力を改めて思い知らされることになった。藤田東は“フラッシュパス”を完全に自分たちのものにしていた。速く正確なパスをダイレクトでつなぎ、相手を圧倒する超高等戦術だ。あまりの実力差に、東海学園はなす術もなく立ち尽くす以外になかった。これほどまで強大な相手を向こうに回し、トシたちに勝ち目はあるのだろうか?
「ミサンガを私だと思って頑張って」(一美) 全国大会を目前にした掛高イレブンの前に、最後にして最大の難関が立ちはだかっていた。フラッシュパスを駆使する藤田東との決勝戦だ。攻略法は何一つ見つからず、不安だけが日増しに大きくなってゆく。フラッシュパスは平松の父や藤田東の監督が、学生時代に苦心の末にあみ出したもの。当時の練習風景を収めたフィルムを研究している平松が、最後の頼みの綱だった。肝心のトシはというと、サッカーとは別に恋の悩みに苦しんでいて…。
「ここから俺たち掛高のサッカーが始まったんだ、久保さんと共に!」(トシ) 運命の朝が来た。いよいよ今日、藤田東との決勝戦が行われるのだ。結局トシは一美に素直な気持ちを伝えられず、手作りのミサンガだけをお守りに託されていた。オーディション会場へ向かう一美。依然としてフラッシュパスの攻略法が見つからず、頭を抱える平松。白石はトシの姉とある約束を交わし、神谷は久保の写真をそっとポケットに忍ばせる。新戦力も加わって更に手強さを増した藤田東に、掛川イレブンは久保の遺志を胸に立ち向かってゆく!
「あの動きは、まるでボクサーだ!」(平松) キックオフの笛が吹かれた。この試合にさえ勝てば、夢にまで見た国立のピッチに立つことが出来るのだ。掛川イレブンはトシの個人技を糸口に攻撃に転じようとするが、フラッシュパスを一人の力で打ち破ることは不可能。エースの松下や主将の加納隆次の前には、ほんのわずかなチャンスさえ生まれそうにない。そのうえ、藤田東には新戦力のゴールキーパーがいた。元ボクサーだという彼は、トシが全力で放ったシュートさえ簡単に弾き返してしまう。
「父さん、フラッシュパスに挑戦するよ!」(平松) トシが最も得意とする左からのシュートが、藤田東には通用しない。これでは最大の武器を封じられたも同然。しかも、フラッシュパスに対しては未だ攻略のヒントさえ掴めていないのだ。やはり勝ち目はないのか…心が折れそうになる掛川イレブンの中で、平松だけは冷静に状況を分析していた。彼は辛抱強く相手の動きを観察した結果、ついにある事実に気付く。フラッシュパスは決して対抗することさえ不可能な戦術などではなかったのだ。
「これがオレのフィニッシュ・シュートだ!」(松下) 平松がフラッシュパスの攻略に成功し、掛川イレブンは同点に追いついた。だが、それで絶対的優位に立ったというわけではなく、藤田東は後半開始直後から底力を見せ始める。しかもトシたちのライバルである一年生エースの松下は、トシが芹沢との一騎打ちで見せたシュートを参考に、人知れず作り上げた秘策を用意していた。藤田東のイレブンでさえ知らない、とっておきのフィニッシュ・シュートの正体とは?
「久保が言った個人技を活かすサッカー…そうさ、その本領を見せるのは今しかない!」(神谷) 松下のカウンターシュートによって勝ち越され、掛川は一点を追いかけることになってしまった。試合時間も残り少ない。2点を取って逆転すれば夢は開けるが、立ちふさがる壁はあまりにも高い。藤田東は決定的な追加点を狙い、松下を中心に猛攻を仕掛ける。信じがたいまでの粘りを発揮し、食い下がる掛川イレブン。スタミナも限界に近付く中、トシがこれまでの限界を超えた力を発揮し始める。久保は“左”だけの男に、自らの夢を託したわけではなかったのだ。
「テメェがボクシングなら、俺はケンカよ!」(白石) 平松の捨て身の反撃で、掛川イレブンは何とか藤田東に食らいついていた。それぞれの夢を賭けた戦いは、いよいよフィナーレを迎えようとしていた。藤田東の主将の加納も、帝王のプライドをかなぐり捨てて全力でボールを追いかけている。持ち前の喧嘩スタイルで掛川ゴールを死守する白石。トシはというと、とっくに肉体の限界を超えているはずなのに、今や天才・久保の再来であるかのように軽やかにボールをさばいていた。スタジアムの全員が息を呑んで見守る中、ゴール前に飛び込んだ彼は…。
「久保の10番を背負う資格が、この男にあると言うのですか?」(ヴィリー) 県大会も終了し、トシたちと一美は青春の新たなステージへと踏み出そうとしていた。全国大会を目前に控えた掛川イレブンは練習に打ち込み、一美は自分の輝ける場所を探すためにオーディションを受けようとしている。成長を続ける一同の前に、ヴィリー・ラインハルトというドイツ人の少年が現れる。久保に憧れて日本に留学してきたサッカープレイヤーだ。ヴィリーとの出会いは、掛川イレブンに新たな波乱をもたらす。
「今日は暴れさせてもらうぜ」(斉木) 一美がめでたくグラビアデビュー。だが、彼女を巡るトシと平松の関係はさらに複雑で微妙な様相を呈していた。一美が好きだと打ち明けたトシ。二人の関係が少しも進んでいないと知るや、平松は自分にもチャンスがあると挑戦状を叩きつける。恋に忙しいからと言って、サッカーがおろそかになっているわけではない。松下や斉木といった代表の座を譲ったライバルたちが訪ねて来ると、ドリームチームを結成して練習試合の相手に名乗りを上げる。
「あれが、北海の氷壁?」(平松) 新年を迎え、全国高校サッカー選手権がついに始まった。夢にまで見た国立競技場のピッチに立つには、ベスト4まで勝ち進む必要がある。大会にはあのヴィリー・ラインハルトも前山工業高校の選手として参加していた。ヴィリーはトシが久保の10番を着けることに猛反発し、掛高に挑戦状を叩きつけていたのだ。絶対に負けられない!意気込むトシたちの前に、氷室明彦率いる鶴ヶ崎学園高校が立ちはだかる。
「鍵を握るのはお前だ、田仲!」(神谷) 全国大会の初戦を迎えた掛川高校は、早くも苦しい展開を強いられていた。鶴ケ崎学園高校の氷室明彦は、“北海の氷壁”の異名を持つ実力者。彼は強固なディフェンス能力で、トシのシュートも簡単に弾き返してしまう。さらに彼はチャンスと見るや攻撃に出て、確実に得点を叩き出す決定力も備えていた。氷壁のように守り、シュートを決め、ゲームメイクまで行う彼は、あたかも皇帝のようにフィールド全体を支配する。トシたちは皇帝にどう挑むのか?
「今日の試合、白石抜きで戦うぞ」(神谷) 歌手デビューを控えた一美はレッスンで忙しく、トシと会うことはもちろん、掛川の試合を見ることさえ許してもらえずにいた。苛立ちと不満がつのる中、彼女に東京への転校話が持ち上がる。もしも東京へ行ってしまえば、トシたちとの距離がますます開いてしまう…。一美の不安など知るよしもなく、トシたちは次戦の相手・豊川高校の研究に余念がなかった。ところが夏子と待ち合わせをしていた白石が、思わぬトラブルに巻き込まれてしまう。
「ケンジ、国立への指定席を用意しておいてやるぞ」(トシ) 姿を消した白石は見つからず、トシたちは彼抜きで試合に臨まねばならなくなった。豊川高校は高橋兄弟というクセ者を擁し、彼らの繰り出すマジックシザーズという技に、掛川イレブンは防戦一方になってしまう。絶対的な守護神を欠くためにディフェンスに労力を割かざるを得ず、反撃することさえままならないのだ。トシたちの夢が少しずつ崩れ去ってゆく中、事件に責任を感じる夏子は、必死になって白石の行方を捜し続ける…。
「一美が俺たちの前から消えて、手の届かないところに行ってしまう」(トシ) チーム崩壊の危機を乗り越え、掛川イレブンは準決勝まで勝ち進んだ。国立競技場のピッチに立つという長年の夢を、ついに叶えたのだ。だが、トシは手放しで喜べずにいた。一美に連絡さえつかないことが、彼の心に微妙な影を落としていたのだ。準決勝の日には、新宿東口で大々的なプレデビューイベントが行われるらしい。一美はこのまま、手の届かない遠い存在になってしまうのだろうか?不安に駆られたトシは夜の町へと飛び出してゆく。
「だからその時は戻って来てくれ。掛川に、サッカー部に…俺のところに!」(トシ) いよいよ準決勝の朝がやってきた。だが、トシの心は曇ったままだった。昨夜一美から聞かされた突然の転校話が、一晩中心に引っかかっていたのである。悩んだ末、トシは彼女にあることを頼んだ。いつか果たせなかった約束を、最高の舞台で最高の形で果たしてみせる。それが出来たら掛川サッカー部に…自分のもとに帰ってきて欲しい、と。果たせなかった約束、それはハットトリックを決めること。相手はヴィリー率いる前山工業高校だ!
「神谷さんのスルーパスを封じられたら、いったいどう攻めればいいんだ!?」(トシ) 前山工業との準決勝は序盤から激しい展開を見せた。ヴィリーがいきなり先制点をあげたかと思うと、猛反撃に出た掛川イレブンに前山工業は巧妙な罠を仕掛ける。ディフェンスの赤堀にしか気付かれないほど巧妙なオフサイドトラップだ。前線のトシや平松をマークしつつ、パスの供給源である司令塔の平松を封じ込めてしまおうという作戦だった。苛立つ平松は次第に冷静さを失い、判定を巡って審判に食ってかかってしまう。
「こ、こいつら全員で攻撃してくるつもりか?」(神谷) ベンチでは久保の使っていたシューズが、遠く離れた新宿ではイベントを直前に控えた一美が見守る中、掛川イレブンは苦しい戦いを強いられていた。執拗なオフサイドトラップやヴィリーの卓越した個人技は、トシたちを容赦なく追いつめてゆく。それでもあきらめない勝利への執念が、彼らの前に絶好のチャンスを呼び込んだ。トシがゴール前でシュートチャンスを得たのだ。だが体勢が不安定で、このまま撃てば確実に枠を外してしまう…。
「トシ、今度こそ守ってくれるんだよね。私との約束…必ず!」(一美) 前半が終了。控え室に戻った掛川イレブンはすっかり意気消沈していた。前山工業のゾーンプレスの前に手も足も出ず、ロングパスでカウンターを狙ってもことごとくオフサイドトラップに引っかかってしまう…。うつむく一同の中で、平松だけがわずかな勝機を見出していた。ゾーンプレスには決定的な弱点があることを、彼は見抜いていたのである。その頃、プレデビューイベントのステージに立った一美は、重大な決断を下そうとしていた。
「久保くんが君と一緒に戦ってくれるはずです」(監督) トシは執念のゴールをもぎ取ったものの、激しい接触プレーによって脳震盪を起こしてしまった。医務室に運ばれる彼を見送りながら、残された仲間たちは決意を固める。トシの代わりはいない。控え選手をピッチに送ることも出来るが、ここは彼が戻るまで10人で持ちこたえよう、と。そして試合再開。治療を受けたトシのそばには、戻ってきた一美の姿があった。彼は久保のシューズを魂と共に託され、決戦のフィールドへと戻ってゆく!
「輝け、トシ!私の見ている前で!」(一美) 試合時間も残り5分。もはや死力を尽くして戦い抜く以外に、勝利をつかんで決勝戦へと駒を進める術はない。掛川イレブンも前山工業もひたむきにボールを追いかけ、果敢にシュートを放つ。キーパーが飛び出して空いたゴールの前にはフィールドプレイヤーが立ちはだかってピンチをしのぐ。久保の10番を巡るトシとヴィリーの激闘にも、一美が見ているまえでピリオドが打たれようとしていた。終了間際にトシの放った伝説のシュートの行方は…!?