デパルマ

キリング・イヴ/Killing Eve シーズン2のデパルマのレビュー・感想・評価

4.5
最終シーズンに向けて再鑑賞。まだまだバチクソ面白い。イヴが身を寄せるMI6はジェームズ・ボンドが所属していることで有名だが、本作の世界観は旧来的な男性主義を振りかざした「007」とは対照的だ。本作におけるMI6のボスはジュディ・デンチを思わせる年配女性、主人公イヴも女性、敵役も女性、直属の上司も女性。サイコパスの殺し屋ヴィラネルは男性のペニスを切断(去勢!)して殺し、不貞を働いた夫を裏切られた妻の目前で刺し殺す。ちなみにボンドは、独身貴族とは言え、次から次へと美女をはべらすワンナイトヤリチン野郎であり、そのモーレツな男性性の裏返しとして拷問で股間を痛めつけられるなどの去勢恐怖が描かれる。また、第5話では専門家によってサイコパス(ヴィラネル)は「私とあなた」ではなく「私とそれ」の関係しか結べないと語られるが、ショーン・コネリーが演じた初代ジェームズ・ボンドは、まさに女(人)をモノのようにしか扱えない非情なスパイだった(ちなみに第6話にはQっぽいおじさんが出てきて007いじりギャグが挿入される)。しかし、この世界のMI6は誰も殺しのライセンスを持っていない。だから彼らは、暗殺集団トゥエルヴと連携し、「007」のブロフェルドのような(IT企業家であり情報を武器に相手を脅すことができる)世界的な武器商人と接触する。イヴはヴィラネルには殺させないように指示していたが、結局頭に血がのぼった彼女は男を殺してしまう。しかしそれは上司キャロリンの作戦通りだった。イヴやヴィラネルはコマに過ぎず、彼女らを利用してイギリスに都合の良いように裏社会をコントロールすることがMI6の真の役割だったのだ。また、女スパイの仕事はセックスやハニートラップなどを使って相手から情報を得ることだと言われる。キャロリンがコンスタンティンや他の男たちと寝ていたのは、おそらくそのためだと考えられる。本作に女性差別主義者のジェームズ・ボンドは出てこない。しかし、殺しのライセンスを持ち要人を狙うソ連出身バイセクシャルでサイコパスの殺し屋と、ハニートラップと頭脳でイギリスの裏社会を支配する女のスパイが活躍する。そのことを踏まえると「No Time to Die」の脚本にフィービー・ウォーラー=ブリッジが参加したのは必然だったのかもしれないね。
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