なかずかい

ウルトラマンブレーザーのなかずかいのレビュー・感想・評価

ウルトラマンブレーザー(2023年製作のドラマ)
4.2
めっちゃ長くなりました。

『ギンガS』での参加以来ニュージェネウルトラマンに毎年携わり続け、シリーズ監督としても『X』『オーブ』『Z』とニュージェネウルトラマンの作品の中でも特にヒット作を打ち出し続けてきた田口清隆監督による新作ウルトラマン。シリーズ構成は『Z』にて考証を務めていた小柳啓伍。
本作の特徴としては、ニュージェネレーション以来のウルトラマンにしてはかなり硬派に寄った設定、描写の数々。劇中でのウルトラマンのアイテムが激減し結果としてインナースペース描写が控えめとなった。そしてウルトラマンが言語を喋らない、その代わりに吠える叫ぶというもの。そして制作陣からは「コミュニケーションをテーマとしている」といった声も見られた。

で実際それらがどうだったか、と言うと、最終的にはかなり良かったと思う。のだが、かなりの期待を寄せていた分正直途中途中でちょっと残念だったところがあり。
ウルトラマンブレーザーは初代ウルトラマンの持っていた得体の知れなさをかなり強調、そして別方向に進化させたキャラクターになっていた。ブレーザーとゲントは思うように意思疎通が出来ない、『ギンガ』以来恒例となっていたインナースペース描写も鳴りを潜めていたこともあり変身後のブレーザーの意識にゲントの意識がどれほど反映されているかも分からない、この2人の融合には人智の及ばない力が働いていることが窺い知れた。
のであったが、8話から登場した新技がブレスに新ストーンを入れることにより発動するもんで、ブレスをつけた腕のアップが映るというインナースペース描写を控えめながら使うこととなった。これがさあ、7話まで一切インナースペースなしだったというのもあってもうちょっとなんとかならなかったのかと思わされてしまう。ブレーザーの中にゲントの形がくっきり残っている印象が出来てしまうし。そしてブレスのアニメーションが長いのでテンションがダウンしてしまうという問題があって。
でも、そう思いながら見続けていたら最終回で同アングルのカットで家族との絆の象徴であるミサンガ?や指輪がブレスと共に光って新必殺技を出すに至るという演出に結実するのでなかなか侮れないもんである。

序盤の出来から期待しすぎてしまったことがもう一つ。ウルトラマンブレーザーの特徴として必殺技が従来の光線でなくスパイラルパレードという光槍を用いるというものがあったが、これは新たな演出を作るための設定であったと思われる。『X』にてザナディウム光線を各話監督がそれぞれ好きに演出した「ザナディウム大喜利」のようなものが見られるかと思ったのだがしかし、メイン監督が担当するパイロットの3話までの時点で既に遊び尽くされてしまいその後のスパイラルパレードの面白さが薄れてしまったように思える。いやこれ田口監督も他の各話の監督も、誰も悪くないとは思うんだけど、なんか勿体ない感じになってしまっているよなと。

田口清隆監督がシリーズ監督を務める作品は他のニュージェネウルトラマンと比較して世界観の構築に成功していると思う。まあ前年の武居監督/根本歳三脚本の『デッカー』もかなり良かったけどね。
で本作の世界観構築に至らせたのはブレーザーのキャラクターに防衛隊の硬派な演出に加えて、数多くの新規怪獣である。結局ね、ウルトラマンって怪獣番組なのである、ってのもありどういう怪獣が登場してどうやって対処したのかが世界観を形成するんですよ。極端な例を挙げると『タロウ』は酔っぱらい怪獣とかうす怪獣とかくいしん坊怪獣とかなんかも出現する世界観、『コスモス』はリドリアスやモグルドンのような怪獣が生息しつつもワロガのような敵性生命体も出現する世界観、『ネクサス』はクリーチャー然としたスペースビーストと闘う世界観、と怪獣は番組を表すですよ。
『ブレーザー』でニュージェネウルトラマンでは異例となる14体もの新規怪獣が登場、一つの生態系を持った世界観を作り上げた。ウルトラシリーズでは怪獣の振れ幅がそのまま番組の振れ幅を示すので。
『オーブ』のエピソード10構想とか『Z』の各キャラクターの履歴書の設定など、ありとあらゆる方法で綿密な世界観を作ってきた田口清隆監督がこれまで様々な要因から出来なかった正攻法で新たな世界観構築に成功したわけだ。来年以後のウルトラマンにも引き継いで欲しいものである。インナースペースを用いない方針も、まだ慣れていない感があり上手く使い切れていなかったので、またチャレンジしてほしいものである。

個人的に好きな回は辻本監督による第4話、軟体怪獣レヴィーラの登場回。ドラマにも特撮にも遊び心を働かせていて楽しかった。攻めた怪獣のデザインも良かったしその軟体動物的な怪獣が地中に溶けていく演出がセットのミニチュアをフル活用しているようで良かった。アースガロンの活躍が勝利に直結する展開、全て良かった。辻本監督、そろそろシリーズ監督やってくれないかな。持ち前の遊び心にこれからも期待しています。

あとはメイン監督田口監督直々の最終回ね、ぶっちゃけドラマ上あんまり上手く使えていなかったかのようだった「俺が行く」というゲントの口癖をブレーザーがカタコトで喋るという展開がなかなか泣けたもので。番組のテーマたるコミュニケーションがきちんと活きたドラマ、ラストバトルとなっており完全に独立した世界観の番組の最終回としてしっかり纏め上げてくれた。
そして宇宙爆弾怪獣ヴァラロンが投げた尻尾の爆弾をブレーザーが空中で起爆させるカット。実景合成を有効に使った、月の軌道を一度は変えてしまったド迫力爆弾が東京で使われているという視覚的説得力。例えば過去のウルトラマンでは、これまで惑星間距離でも殴り合ってきたゼロとベリアルが『ジード』にて地球で殴り合っても坂本ナパームが起こるだけのビジュアルがあってこの時はかなり不満があったのだが、視覚的にもドラマ的にも番組の世界にリアリティを出すことに全力を賭けてきた田口清隆監督にそんな妥協はなかった。本当に良かった。

あ、武居監督の第20話(地底甲獣ズグガン登場回)、中川監督の第22話(ソンポヒーロー回)もめっちゃ良かったな。

というわけでこの番組の総評となるのだが、ニュージェネウルトラマンとしては変化球となりつつも独立した作品として一切の妥協なく作り上げられた作品であると思う。ただ、これまでのニュージェネウルトラマンが10年の時を経て新たな伝統芸能となりつつあったというのもあって、まだブラッシュアップされていない感はどうしても否めなかった。なので、これまでのニュージェネウルトラマンを大切にしつつもこの路線もまた大切にして頂いて、この路線のウルトラマンの最高傑作をいつかまた見られると大変嬉しいと思う。
劇場版にもかなり期待。
なかずかい

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