ねまる

2034 今そこにある未来のねまるのレビュー・感想・評価

2034 今そこにある未来(2019年製作のドラマ)
5.0
years and years

ほんのちょっと先の未来の姿を描き、現在を考えさせる、知的好奇心をくすぐる作品。
ウクライナ周りの話は流石にフィクションが現実になりすぎて洒落にならないけれど、今後もっとこのドラマが扱っているテーマは洒落にならないことになりそうだとゾッとした。笑えるようで、どこか心からは笑えない。
イギリスならではのブラックジョーク。
トランプ政権をダイレクトに批判するドラマを当時作るなんてほんとやることがすごいなイギリス。
それでも、それが、この社会への最終通告のようになってる気がした。

ダニーが、彼氏がネットのデマを信じてしまうのを見て、知性が逆行してると悲しむ気持ちもわかる。でも、なんでも否定するんだから、と言われるんだよね。私もやりがち。自分が信じてやってることと、それを他人に押し付けることは違うよなぁ、と勝手に反省。

トランスについても、トランスジェンダーについての理解は広まって、私は理解者だとか思ってきたけど、デジタルにトランスしたいと言われると???となってしまう。また否定してしまいそうになる。命とは…ちゃんと考えなきゃ。


<ここからネタバレあり>


4話
私は泣きたかったんだと気付く。
本当にそうなってしまうかもしれない未来の姿に、今ならまだ変えられるという警鐘なのに、今を何もできない不安に。不安への無力感に。
それでもこの社会への不安と一緒に、このドラマへも不安を隠して来たのに、それがプツンって、4話ラスト堰を切ったように溢れ出した。家に帰ったヴィクトルと一緒に。だばたばに泣いた。1人で良かった。
ラッセル・トヴェイ、すごかった。
私がいかにたった4話でダニーを愛していたかに気付かされた。

弱い立場にある人たちが、言いくるめられて、騙されて、搾取されていく。ちょっとでも上を、夢を、みるために願って、全てを奪われる。
ダニーの持っている上質な持ち物、革の旅行鞄、美しいセーター、ベサニーが父からもらった1万ポンド。

未来の話といえど、ある家族とそこに政治が与える影響を中心に描いているから、登場人物一人一人の、政治に対するスタンスの違いも明確になる。
家族の話と並行して、過激な言動でイギリス版トランプのように描かれるヴィヴ・ルックに、どんな人が投票したのかも。
論点をすり替え、議論すべきことを語らず、でも、常識人が言えない過激な言葉だから"論破"しているように見える人間。最近の日本にも、こんな人いるな。本当に頭の良い人間は、相手を言いくるめようなんてしないんだよ。
そう言った意味で、私のスタンスはずっとダニーだったから。

ダニーが選んで買ったものが詰まった冷蔵庫。
冷蔵庫を開けて、感情が抑えきれなくなるスティーブン。スティーブンが地味にしんどい。高学歴で、リッチで、ホワイトカラー。そして、そんな人たちの狂い方も。ちゃんとお勉強すれば幸せになれる、いい会社に入れば幸せになれる、ロンドンに2億円の家を持っているから幸せだ。Yes、Yes、Yes。そうやって生きてきた。自分に大丈夫と言って生きてきた人。
ロリー・キニアの本当は悲しいのに見た目だけ笑ってる時の笑い方がしんどい。心臓がはち切れそうなほどしんどい時ほど、またそのしんどさの中に沈んでいく。苦痛に溺れる。

そして、スティーブンが目撃する、裏の姿のヴィヴ・ルック。彼女にだって、彼女がヴィヴとして振る舞うのをコントロールする人がいる。誰なのか、どんな人なのかも分からない。それが社会の闇。

ラッセル・T・デイヴィスはいつだって、
お前のせいだを突きつけてくる。
文句だけ言ってたあんたら自身が悪い、と。
当事者でしかいさせなくする。
このドラマを観る前も後では世界が違うし、リアルに1ヶ月くらいメンタルが落ちた。

たとえ自分1人じゃと思ったって、文句だけ言うのとは違う。
自分が消費者として、どんな会社の、何に、お金を使うのか。ただ安いから、みんな持ってるから、ではなく、社会に生き残って欲しいのはどんな会社や商品なのか。
不法就労をさせて作ったものじゃない、とか、環境に優しい、とか、近所の小さな工場が作ってる、とか。
自分のお金を、自分が選んだものに注いでみるのもいいかもしれない。
自分たちが生きる未来のために、今私は、何を。
ねまる

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