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クイーンズ・ギャンビットのHALのレビュー・感想・評価

クイーンズ・ギャンビット(2020年製作のドラマ)
4.4
チェスであり薬でありセックスでありアルコールである……しかし最も依存するものは勝利であるという、ある分野に必ず現れるであろう「過剰に生きてしまう人」を確信を持って、ダイナミックかつ繊細に描いたドラマ。そういう意味で『ちはやふる』っぽいというのもわからないでもない。しかし、ありえたであろう熱狂や狂乱の日々は最小限しか描かれない。自分が連想したのはケルアックの『路上』に出てくるディーンような人物だった。

のめり込んで観たが、終盤はちょっと物足りなかったところもある。前半の60年代アメリカ描写が良すぎたので、ソ連描写も期待してしまったが、そこは非常に薄味だった。また、終盤にかけてベスの内面、自身の半生といかに向き合うかというところに焦点が移っていくので、前半の男性中心社会的なチェスへの切り込み、また東西対立といった政治的なものとの対峙といった大きな視点が薄れていってしまった気もする。そういう意味で、ラストシーンも「女性であること」「アメリカ人であること」から逃れられないベスの姿のようにも見えてしまった。しかし、現時点で観れるドラマのクオリティとしては最高峰のものだと思う。最早時代は映画よりも配信ドラマなんだろう。
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