ちぇり

母性のちぇりのネタバレレビュー・内容・結末

母性(2022年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

「愛能う限り、大切に育ててきました」

絶対に自分に刺さると思って観た作品。案の定大好きな作品だった。映画全体の作りとしては革新的とか新しさとかどんでん返しの複雑さとかは無かったけど、母と娘それぞれの視点で関係を振り返る感じが面白かった。全ての描写が細かく手が込んでいるので、見ていて発見もあり楽しい。

愛は呪い。無ければ死ぬし、あり余れば苦しめられる。清佳が祖母から捧げられていたのが無償の愛だったのならば、母から注がれていたのはなんだったのだろうか。
娘を持つ母も、また誰かの娘であるという事実。子の母である前に、自分も誰かの大切な子供であるという連鎖。女には二種類あって、それは母と娘である。なんと残酷な言葉なのだろう。私もそのどちらかなのか、あるいはどちらもなのか。
家庭という体裁、子供という飾り、そしてその美しい絵の中に自分が取り込まれているということを認識すること。愛されるには理由が必要で、努力をしなければ人からは愛されないと考えてしまうこと。祖母が与えた無償の愛が、親への愛という呪縛をつくり、それがルミ子と清佳を不幸にしたのなら、本当に愛の正解は分からないと感じた。
私が親から与えられたかったのは、優しく触れられることだった。でも親と子が生きた現実は同じでも、見ていた世界は全く違った。私には母が理解できないという感覚。なせ分かってくれないのかと憤りを感じる母。過去はきっと自分の都合の良い様にしか記憶されていない。

何よりも腹立たしいのは父と不倫相手の存在。最愛の母に目の前で自殺されて心が壊れる妻を側で見ながら、そしてその母からの愛を求めて苦しむ娘の姿を見ながら、何もしない何も出来ない無力で無能な人間。そんな無力さと勇気のなさを誤魔化す為に、自己を正当化して不倫する。よりによって祖母の家で。人間として最悪。仁美も、ルミ子の様子を知りながらよくもそんなことが出来るなと思った。清佳が自殺未遂をしたのは、母との確執や家での問題など様々な要因があっただろうが、直接的なきっかけを与えたのはあの二人。なのに最後旦那がまだ呑気に実家で暮らしているのを見て、本当に社会的制裁が必要だろうと感じた。

でも最後のシーンで、田所の母が認知症になり息子のことを忘れてもルミ子の事は「娘」と呼んで覚えていたのが、かなり皮肉が効いていると思った。
それにしても高畑淳子が、ヒステリックな姑もボケた老人も全て見事に演じられているのがすごかった。演技がものすごくリアル。さすが。

細かなところで言うと、同僚の国語教師と居酒屋で食事中に、清佳が飲んでいるドリンクにストローが刺さっていたのは、最後に清佳が妊娠しているという内容を表しているところなどまで表現がきちんとされていて良かった。亨が良い奴。りっちゃんがバブリーな感じで家を出たから心配だったけど、小料理屋やりながら幸せになれたみたいで良かった。
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