カズナリマン

ハケンアニメ!のカズナリマンのレビュー・感想・評価

ハケンアニメ!(2022年製作の映画)
4.2
ヤル気搾取と呼ばないで。
傑作お仕事ムービー!

アニメ業界を舞台にした映画ですが、監督という仕事を通して「何かを作ること」の意味や楽しさ(もちろん苦しさも)が伝わる、めちゃ丁寧な群像劇でした!
始まりは、ステレオティピカルなキャラクターの羅列(嫌味なプロデューサーやら気難しい技術職、気難しい脚本家に実力不足のアイドル声優に傍若無人な天才肌監督などなど)にちょっと引いたんですが、原作がしっかりしてるんでしょうね、リアルに根ざしたドラマと、それにもがき苦しむ主人公の葛藤なんかがうまく伝わる脚本と演技力で、どんどんのめり込みました。
いつもないエクレアとか、アニメ見ない子供とか、わかりやすい伏線とかも、ベタなりに許せましたw(ほんとはもっと繊細な伏線のがよかったけど)
あと凄いなって思ったのは「世間を騒がすアニメを作る!」という、創作物映画には至上命題な「アニメ」がすごく魅力的に描けてたことですねーー。
元々あるアートを扱った実録もの映画なら簡単だと思うのですが、完全なフィクションで「いい曲を作る」「いい映画を作る」「いい絵を描く」プロセス、そして完成品を見せる映画ってめちゃめちゃ難しいわけです。
いい音楽をつくる映画でも、「ラブソングができるまで」や「シングストリート」など成功する映画はありますが、「傑作ができた!」と映画の中で聴かされる「オリジナルな曲」がイマイチなこともたまにあり、そこまでのお話が面白くても、「ア…レ…」ってなることしかり。しまいにゃ「奇跡のボーカル」を観客に全く聴かせない、と言うMAX逃げの表現方法まで出てくる始末…(BECK)。 「映画を作る映画」(スーパー8やスウィート17モンスター)も、完成品を見るシーンでいくらBGMや編集で盛り上げられても「ん?」ってなることあるし。
その点「ハケンアニメ!」で作られる2作のアニメは、なかなか感動できる完成度で!映画の中で「視聴率が上がってヒットした!」と言われても全然納得できたんですよねーー。もちろん、全編は流れないのですが、「ハケンを争ってる傑作2本!」と言われて見せられる最後のアニメシーン、めちゃめちゃ感動できるんですよねー。もちろん、それまでの葛藤シーンやらチームドラマやら見せられてるのもありますが、やっぱその完成品が「平凡」や「ごまかし」だったらここまで感動できなかったと思います。
これは原作であったとしても、映画化する際にちゃんとそのアニメを映像化できた、映画チームの功績ですね。監督二人、そして彼らの仲間たちが一緒に作った作品がコレだからこそ、本作はちゃんと最後締まって、納得できる感動作になったと思います。
アニメの専門用語やらたくさん出てきますが、要はお仕事映画なので、万人が楽しめると思います!

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大変楽しめた!
 のですが…最後に苦言を2つ。

①労働搾取問題
下町ロケットにペンタゴンペーパーズなど、お仕事ものには「葛藤を乗り越えて最高の仕事をする!」というクライマックスが欠かせないんだとは思います。
ただ、日本で言うとアニメーションの製作現場ってかなり過酷で、仕事に見合った賃金が発生してない場所です。
そこを描くときに「最後の最後で上司(や監督)がアイディアをひっくり返し、皆に頭を下げまくって、もう一度ほぼ徹夜で描き直してもらう!部下も慕う上司のためなら仕方ねぇ!って立ち上がる」シーンって盛り上がると思うんですが…
結局これってボランティア残業だよね?やる気搾取だよね?
ってところが今の日本だと非常に気になるんですなあ。これ見て若者が「いいものを作るためには徹夜作業も厭わないのが日本のアニメ現場だ!」と夢を抱いて入ってくるのかと思うと…やる気搾取の悪循環が見え隠れし、絶賛ってしにくいんですよねー。
こういう映画を作る人たちにはそれも踏まえ、例えばプロデューサーに一言「予算ちゃんと取ってきます!」って言わせるとか、現実的ではないかもしれないけど、現状の問題をちゃんと意識したセリフやシーンを作って欲しかった。
映画はその時代を映すものなので、特に今アニメや映画や音楽など描くなら、60、70年代の日本のような「みんな徹夜で頑張ろうぜ!」と言う描写で終わらせて欲しくなかったです。

②広告問題
こんな真面目なエンタメ系お仕事ムービーなのに!
なぜキラキラ高校生恋愛ムービーみたいなポスターとかにしちゃったのか!!そっちのが人が入る???のか非常に疑問です!
ストイックなポスターにしなくてもいいけど、もっとこの映画の持つ地味なキラキラを魅力的に表現したポスターとかにして欲しかった!