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VORTEX ヴォルテックスのdeiのレビュー・感想・評価

VORTEX ヴォルテックス(2021年製作の映画)
5.0
びっくりしてしまった。開始時の素敵な老夫婦を1画面で映し出すことが映画にとっての当然の視点だから、自分にとって、人生はそうやって映し出され語られることが自然であり真実であるかのように思っていた。全然違う。自分は自分の人生を生きるときに自分の姿すら見れないのに。
老後を見ているようでとにかくドストレートにここまで生きることそのものの無為を克明に差し出されるとは思ってなかった。全然老後の話なんかじゃ無い。素敵に年をとっていくとか人生の積み重ねとか、そんなことあまりに不確定すぎて、何かの指針を「それは御託でして」と突き放されるよう。

認知症の妻の、あの段々と目的が失われていく歩行、目を覚ました時の所在のない戸惑いなんかは凄すぎた。特に最初の目覚めのシーンなんかはまだ映画の展開としてアルツハイマーかどうかも分からない状態なのに、目の動き、表情ひとつで彼女がもう、何かを失ってしまい、霧の中で前後不覚に陥っているあまりの絶望が伝わってきてもうダメだった。まるで戦場を、親を失った子供が歩いてるよう。それくらい胸に刺さる。

恐るべきはここまで冷徹な眼差しを向けてもなお、ちゃんと感動がある。這う這うの体でも、やはり死は最終の絶対の揺るがない救いなんだと確信する。
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