いの

VORTEX ヴォルテックスのいののレビュー・感想・評価

VORTEX ヴォルテックス(2021年製作の映画)
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opのスタッフクレジットからして、箱庭というのか押し寿司型というのか、ぎゅうぎゅうに整然と詰まった名前がびっしりと並び、それがなんとも息苦しい。『LOVE』も想起させるようなアパルトマンの窓、その風景をとらえる映像は、垂直とはいかないまでも、ちょっと他ではお目にかかれないような鋭い俯角で住まいを映し出す(これは最初と最後、二度しめされる)。ちょうにわかのわたしでも、あぁ これはギャスパー・ノエの映画だなって思う。


映画館ですぐに寝てしまうのでそれを防ぐべく、たっっぷり睡眠とって出掛けたのに。いつも言い訳で今回も言い訳だけど、圧の強さからわたしは逃げようと目を閉じたのだと自分はそう思うことにしました。冒頭のキレイなおねえさんのシャンソンかなにかの歌、その弩アップ。そのあと続く映像も圧が強い。カメラさん、お願いですからもっと引いて撮ってもらえませんか?というわたしの懇願など届くはずもなく、部屋のなかも夫妻の顔も何もかも、ひたすら続く強い圧にわたしはこらえきれなくなる。それはギャスパー・ノエの逃げない姿勢ということなのかもしれない。スプリットスクリーンのそれぞれの四方が面取りされて丸みを帯びているのが、監督が示すささやかな優しさのように感じた。人は誰もが死に至るわけで、だけどそれは生きている誰もにとって未経験のことだから不安になるわけで。いつかいつか、わたしがいよいよということになったら、今作を観たい。というのが鑑賞直後に思ったこと。そのときまで、そのことをわたしは覚えていられるのかはわからないけど。どんな死であってもそれでいいじゃないか。死後に自由になれるなんて思うなよ。死んだあとだって自由じゃないんだ。なんなら世界だって地球だって全然キレイなんかじゃない。世界がひっくり返ったってそういうことだって全然アリなんだ。だから。だから大丈夫。だからこそ大丈夫。そんな風に思えた。そして、そんな風に思えたのはとてもうれしいことだった。「PERFECT DAYS」では映されなかったものがここにはある。他の人が表立っては言わないことを率直に(というよりか確信を持って)提示してくださったのだと思っている。だから鑑賞後感はなぜか妙に清々しい。これでいい。


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くすりキメている父が下手から真正面に向けて座っていて、キキが真正面奥からそれを見ている。その映像も忘れがたい。
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