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サバカン SABAKANのRenのレビュー・感想・評価

サバカン SABAKAN(2022年製作の映画)
2.5
良かったけど、毒にも薬にもならない、そこまで印象にも残らない水みたいな映画だと思った。ここ数年で日本には沢山の傑作青春映画が生まれたけど、その中でノスタルジーに全振りした今作に絶賛するような魅力は感じられずに終わってしまった。

ローティーンのジュブナイルものには『スタンド・バイ・ミー』の影が纏わりつく宿命があって、そんな中で『スタンド・バイ・ミー』っぽくならないようにするやり方を多くのクリエイターが模索する中、まんま『スタンド・バイ・ミー』をやってきた。2022年に。
今作では死体ではなくイルカを見に行くけど、早々にイルカの案件は片付けて、以降はひたすら日常にフォーカスを当てる展開は意外だった。ロードムービーは友情の結実のきっかけに過ぎない。

少年時代の、学区外の市民プールに友達と自転車で遊びに行くことすらちょっとした遠征だったあの感覚を思い出せずにはいられない映画。今作のレビューを書けば絶対に自分の思い出話になるし、そういう映画だと思う。レビュー欄に目を通せば、色々な人の子ども時代のことが覗き見できて楽しいのでおすすめ。

ただ、当時から親しくて今でもたまに飲みに行く友人は何人かいるけど、一方で、あの頃を振り返ればこの映画で描かれていた郷愁よりももっとダサかったし痛々しかったなぁなど思ったりした。だから自分にとってより突き刺さる青春映画は『佐々木、イン、マイマイン』で『ザ・エレクトリカルパレーズ』で『あの頃。』で『くれなずめ』であって、今作は「自分ごと」というよりもファンタジーな側面が大きいと感じる。
ハートウォーミングな触れ合いも素敵だけど、やはり自分は青春映画を観て瘡蓋を剥がすような、虫歯をあえて押すような痛みの快感を味わいたい人間なのだなと改めて実感した。子ども時代がそういうものだったと思っているから。

物語の中核がノスタルジーだと、そこまでのめり込めないということが分かったことが今回の収穫。映画のクオリティ云々ではなく、自分の嗜好と受け取り方の問題。
この『サバカン SABAKAN』が、孝明にとってのサバ缶と同じ意味を持つようになる人のことが心底羨ましい。

草彅剛作品はいよいよハズレ無しになってきた感がある。『ミッドナイトスワン』『拾われた男』の演技を経てのこれなら、信頼するしかない。

「あの頃のような友達はもうできない」
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