Ginny

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンスのGinnyのレビュー・感想・評価

4.0
圧倒的なパワーとエネルギー。
今まで見てきた映画とは違う刺激でした。もしかして甘やかされていたのかも。椅子に座ったまま、面白いものを垂れ流すのでどうぞごゆっくり、寝てもいいよ、くらいの。
普段日常で触れない刺激だったので展開に追いつくために必死でした。その映画体験が面白かった。

慌ただしく余裕なく生まれの地と異なる場所で暮らす中国人、税金申告がうまくいかない、頼りなさげな夫、同性愛の娘、etcなど、ドラマ映画にありがちな要素がどうマルチバースアクションと調和するのか、そんな組み合わせ見たことないものだったので謎すぎましたが、カオス<混沌>でどこまでも荒唐無稽にすることで逆にカオスの説得力と体感が凄まじく圧倒されました。

父親殺しは物語によくある要素ですが、この物語は父親殺しではなく母と娘だからこその成立だなと思いました。
その立場になったことないとわからないのかもしれませんが(でも監督脚本は男性2人だからわかるのか…?)娘は時に無限に母親に凶暴にわがままになり、母親は時に信じられないほど力強く深く驚くべき包容力を見せることがある。

途中『2001年宇宙の旅』のまんまパロディシーンがありますが、そこのシーンだけでなくエヴリンの顔面アップの画面から目まぐるしく高速で派手に変わるところは『2001年宇宙の旅』の冒頭の映像の衝撃と似たものを感じましたし、岩の対話のシーンも同作の雰囲気を感じました。これらはオマージュなのか?と思いました。
映画映像の衝撃と静寂と爆音の刺激は映画館の大画面とサラウンドスピーカーあってこそだと思うので是非映画館で見ていただきたい。

このカオスの世界がどう決着していくのか。
エヴリンがeyesを眉間につけた後の展開を見て、ジャックデリダの脱構築が頭に思い浮かびました。
選択肢としてAになりそうな世界でAのままなのか、それともAを阻止するBなのか。
主軸の選択肢A/Bの提示同様全てが二項対立と見せかけられて生きているけれど、その二択ではないということに気付くことで世界は広がり呼吸がしやすくなるのかも。
バースジャンプをする時におかしなことをするってのは、『ハリーポッターとアズカバンの囚人』のまね妖怪ボガートに対しての呪文Ridiculousが思い起こされました。自分の恐ろしいものに化けるボガートを、ユーモアの想像力を使って笑い飛ばして混乱させて撃退する。
ユーモアは大事だな。

アナルのシーンは、私は肛門括約筋が心配で心配で笑えませんでした。ちゃんと解してから挿れないといけないよ。切れちゃうしガバガバになっちゃうかもよ。
ジョイがディルドで無双するシーンも私はドン引きでしたが、この監督脚本『スイスアーミーマン』と同じ2人だったのね…。スイスアーミーマンも同じ原因(下ネタ)で引いてしまってました。
下ネタがあんまり続く(本編に深く関わる)なら私は無理と思いましたがあくまで脇だったのでまだこの作品はセーフでした。

あとドビュッシーの月の光をこんな使い方する映画初めて見た。びっくりした。

ウェイモンドが色んなところにつけていた目玉がアニヤハインドマーチの定番シリーズeyesそっくりで可愛い。

マトリックスシリーズ的なピストル弾止めたり、オペレーターや機械が接続サポートしたり、超人的な闘いができたり、シンクロ率みたいなのはエヴァみたいだなと思ったし危険域まで行って息を取り戻すのもリローデッドみたいだなと思ったりもしたけれど、ほぼほぼ見たことないものを見せられ続けてるワクワク感が半端なくて新しい映画体験でした。

映画見終わって、街に出て普段の見慣れた景色を見ても何だか、何か新しいこと思いもがけないことが起こるんじゃないかってワクワクしてしまう心に気付いてなんか楽しかった。

正解とかあるべき姿とか常識とか高得点とか、そういうものでがんじがらめにして、狭めて子供達を窮屈にさせて絶望させて反発させてしまうよりも、もっと自由に広く面白いことを楽しんで受け入れられる世の中であればもっとハッピーで愛が溢れる気がした。

新しい形でのALL YOU NEED IS LOVEを見せてもらえた気分。

演技良かった。。
前評判通りキー・ホイ・クァン、ミシェル・ヨーも凄かった。
ウェイモンドの、アルファとの演技の仮面の見事な切り替え、真剣な表情の凛々しさなど良かった。マルチバースで色んなエヴリンが出てくるけれどどれも成り立っていて素晴らしかった。あと2人とも目がいい。目千両。
そしてジェームズ・ホン。重厚な存在感に痺れた。年齢知ってびっくり!かっこよすぎる渋い。
そんな中にいてキャラクターの設定が重いけれど上滑りしない見事な存在感を示したステファニー・スー。良かった。すごかった。
アクションもすごいけど皆、表情の演技もとても良く心震わされた。

個人的には衣装デザインも好み。
特にジョブ・トゥパキの衣装は、Making the Cutですか?ってくらいバキバキでハイディやジェレミースコットが好きそう。
ちょっとチープな感じがあった(ジョブの衣装の方の部分が紙みたいな薄い素材とか、フェイスシールドですか?みたいなのとか)けれどそれもあえてなのかな、とあんまり気にならなかった。色やデザインが好き。

予告編で、ジョブの正体はジョイって普通に言われてたのですがそんなものなのでしょうか?
映画本編を見ながら、ジョブの正体って映画で明かされても良かったのでは…と予告編に懐疑的になってしまった。
Ginny

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