竜平

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンスの竜平のレビュー・感想・評価

4.5
夫と娘を持つ、コインランドリー経営の至ってフツーの女性がある日突然出会うことになる「多元宇宙(マルチバース)」の世界。やがて全宇宙の存亡をかけた争いに足を踏み入れることに、という話。トンデモ系SFアクションエンターテイメント。

また新たな「ぶっ飛び映画」が誕生してしまった気がする、これはもちろんいい意味で。監督が『スイス・アーミー・マン』で彗星の如きデビューを果たしたダニエル・クワン&ダニエル・シャイナート、通称ダニエルズで、そっちにもあったようなギャグともマジとも取れる、シュールでありながら妙な説得力に溢れる作風というのが今回もまた炸裂してる。話題の「A24」製作というのもあってかなかなかクセありで、見る側に対して決して優しくはない感じ。まぁ「アカデミー賞大本命うんたらかんたら」の謳い文句で変にハードルを上げず見てほしいところ。いやしかし複雑で独特で好みをはっきりと分ける内容なのは間違いないんだけども、まず今作はエンターテイメントとしての出来が素晴らしかったりする。ややこしい設定やらをあまり深く考えることはせず、「なぜ」とかも言及せず、まずは出てくるものを大いに楽しむべき。というか、そもそも人知を超えたようなこの多元宇宙(マルチバース)という設定、それを活かしての展開や映像世界のまーーー楽しいこと。で今作は謂わば「マルチバース × カンフー」ってな感じで、バトルシーンもバツグンにかっこいい。なんともサエない主人公「エヴリン」を演じるのがミシェル・ヨー。きっと彼女の経歴あってこそ為せるような役柄で、地味な風貌を演じつつも華麗にキメるアクションというのがもう最高中の最高。そして夫「ウェイモンド」には『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』『グーニーズ』のあの少年(だった)キー・ホイ・クァン、いやー大人になったねー。彼は子役時代の後ずっと制作側、つまりは裏方に回っていて、休んでいた俳優業へ今作で本格的に復帰したという、この事実だけでも胸熱なのって俺だけじゃないよね。大人になっても声が高めで可愛らしいのめちゃいい。忘れちゃいけないジェイミー・リー・カーティスの怪演も楽しいところ。

様々な姿で登場してくる主人公ら人物たちも見どころで、それぞれ「違う選択をした自分」だったり「違う歴史を歩んだ世界の自分」だったり、ここらへんの話で否が応でもワクワクしてしまうの、ロマンを感じてしまうのも俺だけじゃないよねきっと。無限の可能性というやつ。そんでめちゃくちゃ壮大で途方もない話ながら、自身の人生、そして親子の確執のドラマにも落とし込んでいくあたりの秀逸さよ。夫婦や親子間にある普遍的でわりと身近で、言うなれば小ぢんまりとした問題というのをこうも壮大な話と掛けてくるのはかなり斬新。いや、気づいてないだけで「日常」ってのはじつはめちゃくちゃ深くて壮大で計り知れないものなんじゃないか、とまで思わされてしまう。すべてを内包したシュール、これぞ、まさにシュール。

様々な生き方、選択というのを肯定も否定もしつつの終盤、そしてラストに胸が熱くなった、泣きそうになってしまった、我慢した。そんなこんなでメッセージ性も良きだったなと。考えれば考えるほどにどうでもよくなっていくような、まるで「人生とは、生涯とはなんぞや」のその真髄を見せられたような感覚。新たな種類のエンタメ、ネクストレベルの傑作映画。
竜平

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