とみやま

すずめの戸締まりのとみやまのネタバレレビュー・内容・結末

すずめの戸締まり(2022年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

新海作品は多くは見ていないけど、「君の名は。」「天気の子」よりも楽しく見た。
登場人物たちのやり取りは苦手。たぶんこれは、新海監督の人間描写が得意じゃないんだな、と3作品見て、しみじみ思った。この感じの匂いは乗れない!っていうのが散りばめられている。その「匂い」が好きな人もいるのはわかる。
だからといって、不思議なことに「この匂いが苦手だから、この映画も嫌いだ!」とはならずに、普通に楽しく見た。匂いが苦手で居心地悪いけど、物語がすごく気になって。臭いけど美味しい食べ物みたいな感覚だ。

自分の過去と向き合ったり、その街の生活と向き合う旅になる構造が面白かった。とくに、生活描写。劇中、旅をする土地には震災とつながりのある土地だとわかったけど、そこで生きている人びとの生活がそれとなく感じる豊かな描写が良い。壮大な空間のデザインとかも相まって、映画館で見た方が絶対面白い映画な気がする。

といっても、震災で失われた生活と向き合うなかで、戸締りすることの決着、結末にはあまり乗れない。たぶんそれは、まだ終わらないし答えも見つからないことに、どうにかきれいに終わらせてしまう都合を感じてしまったから。
戸締りすることは、防災のメタファーと同時に、記憶に蓋をする忘却のメタファーにもなりうるのがすごく良く出来たストーリーだなと思う。生活に関する豊かな描写があるからこそ、そう感じた気がする。神戸のシーンは震災から時間が経って、生活が取り戻された人びとの「ある夜」が描かれているので震災の二文字があまり前に出てこないけれど、東北に到着すると、まだ生活が止まったままの土地がそこにある事実が浮かび上がる。見ている側がどこか忘れてしまっている現実に扉を開いて、再び閉じる、それをモノローグなどであまり説明しないで観客に委ねる、これがとても効いていて、良かった。

自分が震災で母を失った過去に向き合うなかで、草太の救出を重ねたのは、ちょっとなあ、と思う。すずめと草太は恋愛関係とも信頼関係とも言えない「ちょうどいい距離の旅仲間」な気がした。だからこそ、震災で負った傷や喪失感と、ふたりの関係性を天秤にかけたとき、本当にこれは釣り合うのかな、と思ってしまう。作品の結末は、演出的に見やすいから頭では理解できるけど、うまく腑に落ちない。

東北に向かう途中で、環がすずめに心ない言葉を投げて、関係が拗れたあとに「ルージュの伝言」が流れるタイミングが良い。登場人物が歌わなくても…とは思ったけど、その他も同様に、選曲が信じられて楽しかった。あと、教員の採用は私立なら人数の都合で再応募の学校もあったりするから頑張るんだ草太。それに閉じ師しながら仕事するなら非常勤の方が何かと都合が良いし割といつでも募集してるぞ草太。
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