とみやま

オッペンハイマーのとみやまのネタバレレビュー・内容・結末

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

半年以上待った映画はこんな作品だったのね、とか思いながら見た。ずっしりとした出来の映画で、とても見応えがある。だけど、体感としてはあまり疲れないで見ることができるバランスで良い。冒頭から駆け抜けるような疾走感があって、あれよあれよという間に、オッピーが原爆を作る初めの段階へと連れていかれる。

オールスター興行って感じで、あっこの人出てんの?というキャストばかりだった。マット・デイモンはめちゃくちゃ良い。やっぱり良い俳優さんだなあと、しみじみした。撮影も見事で、IMAX環境をこだわるのもわかる(画角変わりまくるのは集中途切れるから残念だったけど)すっげー!とか思いながら観た。撮影はホイテ・ヴァン・ホイテマ。そういえば「NOPE」の、何もない真っ暗な夜の撮影も素晴らしかった。それにしても声に出して言いたくなる名前だ。ホイテ・ヴァン・ホイテマ。ホイテ・ヴァン・ホイテマ。

この映画はとてもグロテスクだと思ったのは、科学者たちが熱中して追い求めた核の実験の日々は、どこか青春のような熱さを持っているのだけど、彼ら、彼女らが追い求めた先にあるのは広島と長崎の過去であること。そして、その先には今日の核兵器の脅威に晒されている世界があること。我々はあの日を知っているし、今なお、世界中が核の脅威に脅かされていることを肌で感じている。そのことに対して、この映画はかなり自覚的であり、意図的なバランスで作られているのが素晴らしい。熱心に追い求めた量子力学の研究の先にあるのは大量殺戮に他ないという眼差しは、音楽の使い方から見ても明らか。

そしてなにより、この映画には広島・長崎の光景はおろか、戦場が1ミリも出てこない。それも意図的だと思う。被爆地の写真が映ったプロジェクターに、オッピーが目を背けたシーンは印象的。オッピーの生きている環境及び、興味、認識できる範囲に戦争の現場というのは存在してなかったし、オッピー自身、原爆を投下したらそこに居るひとびとがどうなるか想像できていなかった。そんな想像すらできていなかった。想像しようとしなかった。本当に愚かだと思う。
もっと言えば、劇中、原爆の光の中で人の皮が紙のようにめくれていく場面が出てくるが、現実はもっと残酷な被害を受けてしまう。原爆が落ちたら、周囲の人間は文字通り「消える」わけじゃない。

とまあ、色々あるのだけれど、一番どうなってるんだ?と改めて思ったのは、「バーベンハイマー」のミーム。昨年夏の時点でミームを垂れ流していたのは、まあ見てない層もいるだろうし、と思っていたけど、オスカーでネタとして出していたのを見て、本当に目を疑った。その程度なんだなと大変失望した。それにジェームズ・ウッズがシオニズムと虐殺肯定全開の発言をしていたり、ノイズの多い映画であることも確か。「なんだかなあ」ともやもやする映画だった。
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