とみやま

哀れなるものたちのとみやまのネタバレレビュー・内容・結末

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

面白かった。元々そこまで気になっていた作品じゃなかったけど、最近映画を観られてなかったし、とりあえずなんか観なければ、と思って見た。すごく良かった。

ベラの主体性を回復し、だるい男たちから解放されるまでを描くという意味では、「バービー」と同様の題材なはずだけど、描き方というかタッチがあまりにも違うのも面白い。当たり前っちゃ当たり前なのだけど。こっちの方が男たちの愚かさがソフトなフリした強烈さがあって乗れた気がする。マーク・ラファロの馬鹿馬鹿しさとどうしようもなさっぷり。帰りの船に乗ったのかと思いきや全然帰ってねえ、っていうシーンは笑いながら頭を抱える感覚。
少し驚いたのは、劇中性行為がわんさか出て来るんだけど軽いこと。良いバランスな気がした。ダンカンは「テクがあって気持ち良いだろ?惚れたでしょ?」と愛だの恋だのに結びつけたがるけど、ベラにとってはスポーツ的な気軽さでやっていて、そこから愛だの恋だのといった重さに繋がらない。そもそも冒険のために駆け落ちしたのだから。「うるせえ」てなばかりに跳ね除ける。けれど次第に、ダンカンはベラを所有物のようにしたがり、冒頭の自殺にまつわる背景が浮かび上がる。冒頭の彼女はベラになる前だけど、そういうことなんだろうな、と思いながら見ていた。アルフレッドに連れ戻された後のシーン。「あの時のお前は妊娠して精神的に不安定になった。性的にもおかしかった」みたいな言葉をぶつけるのだけど、違うよお前のせいだったんだよバカ×10000と言いたくなるような地獄がそこにあった。

ウィレム・デフォーがベラの創造者として出てくるんだけど、この人がフランケンシュタインであり、フランケンシュタインの怪物のような人物なのが面白い。デフォーのデフォー力って良いなあー、とか思って見た。あの死に際はフランケンシュタインの怪物にとって一番幸福なものだったんじゃないだろうか。心がないようで心がある。マックスの存在含めて、とても幸せな空気がスクリーン越しに感じられて良かった。
この作品に登場する男たちは、基本バカで愚かで暴力的だ。が、中にはハリーのような良き者も存在する。マックスたちはベラの生い立ちに関する暴力性に加担しているものの、主体性を尊重しようとする善人にも見える。時々加害者になる善人と言うか…。

それにしても、エマ・ストーンがいなかったら実現しなかったんじゃ?と思うくらい、エマ・ストーンが素敵な映画だった。変顔とチャーミングとシリアスがごちゃ混ぜになったあの感じ。すごくいい。

劇中の色彩感覚も素晴らしい。とくに空の描写。禍々しいようで油絵のような美しさがあるあの空に見入ってしまう。これだけでも、この映画を観た価値がある気がする。
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