とみやま

瞳をとじてのとみやまのネタバレレビュー・内容・結末

瞳をとじて(2023年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

非常に良かった。できるだけ期待を上げず、会社帰りにふらっと見に行った。素晴らしかった。

正直言って、上演時間169分は普通に考えたら長い。見る前は「えっそんなに長いの!?」と躊躇してしまった。けれど、見終わると非常にわかる。確かにこの長さは必要。22年前に失踪した俳優フリオの足跡を見つめる、169分の旅のようだった。

冒頭から「これからなにが始まるのだろう」と思っていたら、シーンの切り替わりで多重構造になっていることに気がつく。この冒頭のシーンも映像が綺麗。で、「ああ、そういう物語なのね」と思って見ていると、痕跡を残さずに姿を消した俳優フリオの話が浮かび上がる。
彼が今どこにいるかも生きているのかすら何もわからない。けれど、22年前の周囲の人間たちは彼がいた痕跡、記憶を無くさずにいる。そして周囲にいた人々がフリオの記憶を共有し、様々な角度のフリオが思い起こされる。物置の中で埃の被った記憶を丁寧に整理して並べるように。貸し倉庫のシーンはそう言った意味でもとても印象深い。

個人的には老人ホームに場面を移してから、本当に素晴らしかった。自分の残した足跡をさっぱり忘れたフリオがそこにいて、ミゲルのことも覚えていない。身体に染み込んだ記憶を除いて(のめり込んで集中するときの、タバコをぽいっと投げるあのチャーミングさ!)。失った記憶を取り戻すために、22年前の未完成映画のフィルムを映画館でせめて流そうとする展開も面白いし、しみじみする。いままで整理してきたフリオの痕跡、物語のピースを最後に合致させる。あの優しさに溢れた時間。そして映写機が止まってカラカラと音を立てるフィルム。あの幕切れ。何から何まで。

ラストシーンの映画館も良かった。物語のピースと記憶のピースが合わさって、点と点だったものが線になる。それが多重構造のそれぞれの構造ともリンクしていく。映画に対する愛の深さとでも言うべき素敵な瞬間が詰まっている。それでいてとても優しい。言語化が難しいけど、隅々まで行き届いた暖かさにいっそう感動する。あと、全体的に光と影のタッチがとてもきれいで、「黒がとても映える映画だなあ」としみじみした。黒の中に浮かび上がる人の顔だったりと、映画館で観た方が良い作品だと思う。

役者陣も良かった。劇中映画の登場人物たちなんかは雰囲気がありすぎて、よくぞここに…!という気持ち。アナが出演するっていうのが話題になっていたけど、素敵な役者さんだなあ、と思った。はじめの登場時は「今はこんな方なんだなー」と思いながら見ていたけど、フリオと会うシーンで真正面からのショットで、「この目の感じ、見たことある!」と驚いた。まあ、当たり前なんだけど。澄んだいるようで不安定なようにも見える虹彩が印象的。しぐさから言葉までとても存在感があって良いなあとしみじみした。「ミツバチのささやき」を観たのが半年前なもので、感慨に浸る感じではないのだけど、きっと同窓会のように「久々に会ったね」って感慨にふけた人も多いと思う。なんたって、この映画自体が「あの時のあの人」を追いかける物語なんだから。
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