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すずめの戸締まりのWadeZentaのネタバレレビュー・内容・結末

すずめの戸締まり(2022年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

新海誠史上一番だと思いました。(なにが?)
この映画に関してはあまり安直に「面白い!」と言いたくなかったので、、ただそれらひっくるめて「映画」として面白いと呼べる作品だったのではないかと思います。

まず前提として、東日本大震災をテーマとして扱う以上製作陣のプレッシャーや気の遣い方は並々ならぬものだっただろうと思います。

正直この映画が観る人によって、良いものか、悪いものに映るかは本当にこれを書いている段階では分からないので、あまりおおっぴらにこの映画の感想を述べることも避けようと思いました。

私、一個人視点での感想を述べます。


①とても良く出来たロードムービー

・スタートですずめとそうたが出会うシーンから2人が旅をするまで(違和感を感じる程の)怒涛のスピードで物語が進んでいきます。椅子になったそうたとすずめの旅のシーンが現代的な要素(Suicaでとにかくなんとかなったり、Googleマップを道標に進むところとか)を多く抱えつつ進んでいきますが、この映画を良いものにしたのはむしろそのあと、芹澤さんと車に乗ってから始まる旅のシーンだったと思います。猫のダイジンが乗る車で流れるルージュの伝言は、あの映画の旅立ちを彷彿とさせますし、いわゆる日本の名曲をかけながらオンボロの車で道を行く様子はむしろこちらの方が「古典的なロードムービー」という雰囲気を感じます。


②裏か表か

・芹澤の車のシーンで初めて気づきました。古典的ロードムービーで向かう先は、すずめの”原点”ともいえる場所。ロードムービーのはずが自分のいた場所に向かっているという、むしろ旅を逆再生で見ているようなプロットになっている。また、ダイジンとサダイジンが、大きくなると白が黒に、黒が白になるように「表裏一体」という言葉を想起させるシーンが多くありました。考えてみれば、すずめが物語序盤から、後ろ戸に飛び込み、肩透かしを食らうシーンもどちらが表か裏か分からなくなる描写が多くありました。


③「戸締まり」とは

・映画を見ているうちに私は、自分がいる世界が外側にあるのか、内側にあるのか、劇中のこの扉は閉じられたのか、開けられたのか、混乱してしまうような瞬間が多々ありました。他人には見たくも知られたくも無い真実を隠す、自分から遠ざけるために、箱に鍵をかける。他人に見られたく無い、盗られたく無いものにも鍵はかける。新たな朝、清々しい気持ちで家を出る時にも鍵はかける。様々な意味を持った中にこの「戸締まり」と言う言葉はあると感じました。
その中で私が一番印象に残る言葉が、劇中最後の方にある、すずめがこちらの世界に戻って来た時に言う「いってきます」と言う言葉。
ネガティブにも、ポジティブにもなる、戸を締める、鍵をかける、という行為が今回の映画の主題そのものを表し、我々に前を向くよう促しているようにも感じました。




〜ここからはただの雑談〜


そもそもそなぜこの映画を見た時に、私(1995年神奈川県に生まれた一日本人)は少し「緊張した」感情を覚えたのだろう。ヒトラーや太平洋戦争など、(そもそも比べることは出来ないが)東日本大震災かそれ以上に人々に悲しみを残した出来事はあるはずなのに。

一言でいうとそれは当事者意識だと思う。正直、このような言い方は適切では無いかもしれないが、私はあまり戦争を「知らない」。だが、東日本大震災はしっている。なぜなら曲がりなりにも私もその時同じ日本にいた当事者だからだ。
被災者と傍観者を分け隔てるものは何か。それは正直分からない。だが、私はこの映画を見た時、この設定大丈夫か?と思ってしまった。そこに傷つく人がいるかもしれない、と思ったからだ。でも、その思わず「大丈夫か?」と浮かぶ思考の重要さを同時に感じた。

被災者と傍観者を分ける境界線は何か。
そんなものは無い。唯一この映画を見る上で大切なことは想像力だ。私以外のこんな人がこの映画を見たら、こんな感情を抱くのではないか?という気持ち、だが、あなたがこの映画を見て感じた気持ちを否定することは決して無い。
その映画を見て感じたことに不正解など何一つないから。

その気持ちを知った上で、人と議論する、映画が語る意味をさらに語る、という極めて基本的なことを再度思わされた映画だった。

私にとっての太平洋戦争のよう、東日本大震災が「教科書の中の出来事」になる時が確実に来る。でも、嫌なことから目を背けるように鍵を締めるだけでなく、その悲しさ、辛さ、人の強さを宝箱のように次代に残す、祈りをこめた作品のように思えた。

一方で、新海誠監督はこれまでの『君の名は。』や『天気の子』でも、ある種カタストロフィを重要な設定として作品に組み込んでいたことを忘れてはいけない。今回よりそれを「被災者」にフォーカスして描いた作品だったと言えるが、もしかしたらずっとこんな綺麗で儚い、作品を描きたかったのではと思わずにはいられなかった。

人を傷つけず、自分の世界を広げる。美しい描写が得意だと言われる新海誠監督がこれまで描いた作品にも共通する精神的なテーマを、初めて見つけられたような気がした。



他にも、今回あまりにジブリ作品を意識しているような描写が多いことが気になりました。まだ言及出来ていない要素や出来事はたくさんあります。

ぜひ意見交換させて下さい。
WadeZenta

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